舞子 (砲艦)

砲艦 舞子

日本海軍の砲艦「舞子」は、かつてポルトガル海軍の河川用砲艦「マカオ」として運用されていた艦艇を、太平洋戦争中に日本海軍が購入し、自軍の艦艇に編入した異色の艦です。その名は、兵庫県神戸市垂水区にある美しい景勝地として知られる「舞子の浜」にちなんで命名されました。

本艦の建造は1909年に遡ります。イギリスに所在するヤーロー社によって起工された小型砲艦であり、ポルトガル植民地であったマカオの警備任務を担う目的で発注された艦でした。同年中に無事竣工しましたが、その小型の船体ゆえに自力での長距離外洋航海が困難であったため、一度分解された上で輸送船に乗せられて香港へと運ばれました。香港で再び組み立てられた後、本来の任務に就き、ポルトガル海軍の「マカオ」として活動を開始しました。

1939年9月に第二次世界大戦が勃発した際、ポルトガルは中立の立場を維持し、戦争に直接参加することはありませんでした。しかし、1941年12月にアジア太平洋地域に戦火が拡大すると、マカオ周辺も戦禍に巻き込まれることとなります。マカオ周辺を日本の勢力圏に収めた日本海軍は、中立国であったポルトガルとの交渉を経て、1943年初頭に「マカオ」の購入を決定しました。

同年2月末に日本側へ引き渡された本艦は、香港に設置されていた海軍第二工作部にて必要な改装が施されました。約半年間の改修を経て、同年8月15日付で二等砲艦「舞子」として日本海軍の軍籍に正式に編入されました。編入当初は佐世保鎮守府の所属とされ、その後、中国方面を担当する第二遣支艦隊隷下の香港方面特別根拠地隊、さらに広東警備隊に組み入れられました。これ以降、「舞子」は香港や広東といった南シナ海沿岸地域における重要な航路や占領地の警備、および哨戒活動に投入され、地味ながらも継続的な任務を遂行しました。

日本海軍の艦艇類別においては、1944年10月1日にそれまで「軍艦」籍にあった本艦の類別が変更され、より広範な定義である「艦艇」としての「砲艦」に位置づけられることとなりました。

戦局が悪化する中の1944年9月には、作戦名「ト号」と称される、日本軍の補給路確保を目的とした中国沿岸部における水路掃海任務に従事しました。この作戦遂行中の同年9月24日、本艦は敵航空機による激しい機銃掃射に遭遇し、この攻撃によって広東警備隊司令であった小倉大佐を含む4名の尊い命が失われるという被害に見舞われました。

「舞子」はそのまま広東の地で太平洋戦争の終戦を迎えました。終戦後、本艦は連合国軍によって中華民国に引き渡され、中華民国海軍の艦艇として「武鳳」（資料によっては「舞鳳」とも表記されます）と改名され、引き続き中国の沿岸部で運用されました。しかし、1949年に中華人民共和国が成立し、国共内戦で国民党軍が敗退すると、本艦は中国人民解放軍海軍に投降し、「3-522」という新たな番号を付与されて、今度は人民解放軍の艦艇として運用が続けられました。

このように、ポルトガル、日本、中華民国、中華人民共和国と、実に四つの海軍を渡り歩いた「舞子」の長い艦歴は、1960年代に中国人民解放軍海軍から除籍されることで、静かにその幕を閉じました。

日本海軍籍にあった期間の艦長（1944年10月1日以降は砲艦長）は以下の通りです。

• - 福地好 大尉 / 少佐 （1943年8月15日 - 1945年4月29日）
• - 土居正雄 大尉 （1945年4月29日 - 1946年5月14日）

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