舟歌

舟歌（ふなうた）とは、フランス語でバルカロール（Barcarolle）、イタリア語でバルカローラ（Barcarola）などとも称される、多くはピアノのために作曲された性格的小品の一種です。

この音楽形式の起源は、水の都ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎたちが口ずさんだ歌にあるとされています。本来は、船頭が舟を進める際に歌われた民謡や労働歌に類するものであり、これにはロシアの『ヴォルガの舟歌』や日本の『最上川舟唄』のような例が見られます。クラシック音楽における性格的小品としての舟歌は、このヴェネツィアのゴンドラ歌を模範として発展しました。

初期の例としては、フェリックス・メンデルスゾーンの『無言歌集』に含まれる「ヴェネツィアのゴンドラの歌」などが挙げられます。その後、フレデリック・ショパン、アントン・ルビンシテイン、ガブリエル・フォーレ、ピョートル・チャイコフスキー、ジャコモ・プッチーニ（彼の作品には「マランゴーナの舟歌」があります）、セルゲイ・ラフマニノフといった多くの作曲家たちがこのジャンルで作品を残しています。特に、フォーレは生涯にわたり13曲もの舟歌を作曲しており、彼がこの形式を独自のジャンルとして探求しようとした姿勢がうかがえます。しかし、彼に続く作曲家は少なく、舟歌は個々の作品として散発的に作られるにとどまり、完全なジャンルとしては確立されず、19世紀から20世紀初頭にかけて広く愛された性格的小品の一つという位置づけに留まりました。また、ジャック・オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』の中の有名な「ホフマンの舟歌」も広く知られています。

舟歌の音楽的な特徴としては、通常6/8や9/8のような複合拍子が用いられます。低音部では比較的単純なリズム型が反復され、これが水面を穏やかに漂うような情景や、ゴンドラが波間を進む様子を想起させます。その上に、叙情的で歌心にあふれる旋律が乗せられます。これらの旋律は多くの場合、軽やかな中にどこか感傷やもの悲しいニュアンスを帯びているのが通例です。ただし、チャイコフスキーのピアノ曲集『四季』に収められた舟歌のように、珍しく4/4拍子が採用されている例もあります。形式的には、中間部を挟んで冒頭の旋律が再現される3部形式が多く見られます。

これらの作品群の中で、特に注目されるのがショパンが1846年に作曲した舟歌です。彼の作品は、フォーレのようにジャンル全体を探求する姿勢とは異なり、個別の傑作として極めて高い完成度を持っています。単なる抒情的な小品というよりは、ショパンのバラードやスケルツォにも通じるような、疑似ソナタ形式に近い整然とした構成や、精緻な主題労作が見られる大規模な作品です。このショパンによる舟歌は、舟歌と名付けられた音楽作品の中で、規模においても内容的にも最も優れた作品の一つと評価されています。こうして舟歌は、様々な作曲家によって異なるアプローチが試みられながらも、ヴェネツィアの水の情景を描写するロマンチックな小品として音楽史にその名を刻んでいます。

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