色彩の記憶

色彩の記憶（しきさいのきおく）

『色彩の記憶』は、2009年に公開された日本のドキュメンタリー映画です。製作は、美容サロン向けのヘア化粧品などを手掛ける総合メーカーである株式会社ミルボンが行いました。国際的な場では、『The Beautiful Way of Life』という英題でも紹介されています。

この作品は、日本の伝統工芸である西陣織の世界で稀代の織元として知られた、山口伊太郎（やまぐち いたろう）氏の生涯、特に105歳という長寿を全うする直前の最晩年に焦点を当て、その姿を丹念に記録したものです。

山口氏は、西陣織の伝統技術を継承しつつも、独自の美意識に基づいた斬新な色彩感覚で、美術品とも称される着物や帯を生み出し続けた孤高の職人であり、後に人間国宝にも認定されました。映画では、氏の創作への尽きない情熱、色や技術に対する深い洞察、そして日々の暮らしや人生哲学が静かに描かれています。単なる人物伝ではなく、日本の伝統文化が現代に生きる様や、一つの道を極める人間の精神性、美しさとは何かという普遍的な問いを観る者に投げかけます。

美を追求する事業を展開するミルボンが本作を製作した背景には、企業の文化活動や社会貢献という側面があると考えられます。美を生み出す人間の手仕事や、伝統が持つ力に対する敬意を示し、それを映像として後世に伝えることを目的としたのかもしれません。山口氏の生き方や美学は、美容の世界にも通じる普遍的な価値を持っています。

製作には多くのプロフェッショナルが携わっています。監督は、人間ドラマや記録映画に定評のある御法川修（みのりかわ おさむ）氏が務めました。撮影は、東京篇を小林元氏、京都篇を芦澤明子氏、佐賀篇を池田俊己氏が担当し、それぞれの土地の風土と山口氏の世界観を美しく捉えています。また、製作の鴻池一郎氏、企画の佐藤龍二氏、プロデューサーの桂良一氏、井手口直樹氏など、優れたスタッフが名を連ねています。

主要な出演者として、主人公の山口伊太郎氏の他、西陣織関連会社の野中明氏（紫紘）、陶芸家の馬場真右ェ門氏（真右ェ門窯）、美容関連の高原紀子氏、岩上晴美氏（ともにkakimoto arms）などが登場し、山口氏との関わりや、彼から受けた影響について語っています。

『色彩の記憶』は、公開前から国内外の映画祭で注目を集めました。映像技術を評価するJPPA AWRDS 2007でのゴールド賞をはじめ、ドキュメンタリー映画に焦点を当てた映画祭でも高く評価されています。第11回ゆふいん文化・記録映画祭では「第一回 松川賞」を、第23回高崎映画祭では「まなざしの力／ドキュメンタリー特選」を受賞しました。国外では、第23回福岡アジア映画祭や、パリで開催された現代日本映画フェスティバルでも上映されました。

特に、2009年12月にパリのグラン・パレで開催された現代日本映画フェスティバルにおいては、その芸術性が高く評価され、芸術協会賞（Prix du comité artistique）を受賞する快挙を成し遂げました。これは、日本の伝統美とドキュメンタリーとしての質が国際的に認められた証と言えるでしょう。

『色彩の記憶』は、一人の偉大な伝統工芸家を通して、日本の美意識、職人の誇り、そして老境にあっても創作意欲を失わない人間の力強さを描き出した秀作です。ミルボンの企業理念とも共鳴する「美の探求」というテーマが根底に流れ、観る者に深い感動と示唆を与えます。伝統や文化、そして人間の精神性に関心を持つ多くの人々にとって、示唆に富む作品と言えます。

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