芝不器男

芝不器男（しば ふきお）

芝不器男は、明治36年（1903年）に愛媛県で生まれ、昭和5年（1930年）に26歳という若さで亡くなった俳人です。「天の川」の代表的な作家として知られ、「ホトトギス」でも四S以降の新人として注目を集めました。

生涯

愛媛県北宇和郡明治村（現在の松野町）で、教員で村長も務めた父・来三郎と母・キチの四男として生まれました。「不器男」という名前は、『論語』の「子曰、君子は器ならず」に由来します。

宇和島中学校、松山高等学校を経て、東京帝国大学農学部林学科に入学。しかし、関東大震災の影響で休学し、その後は東京に戻ることなく、姉の誘いで長谷川零余子が主宰する「枯野」句会に参加し、俳句を始めました。当初は芙樹雄や不狂という号を用いていました。

その後、東京帝大を中退し、東北帝国大学工学部機械工学科に入学。「天の川」に投句を始め、すぐに巻頭を飾るなど、その才能を発揮しました。吉岡禅寺洞の勧めで、本名の不器男を俳号としました。

「ホトトギス」にも投句し、入選句「あなたなる夜雨の葛のあなたかな」が高浜虚子に高く評価され、注目を集めました。しかし、冬季休暇で帰省後、仙台に戻らず、東北帝大を除籍処分となります。

伊予鉄道電気副社長の太宰孫九の長女・文江と結婚し、太宰家の養嗣子となりましたが、睾丸炎を発病。九州帝国大学附属病院に入院し、療養の甲斐なく26歳で永眠しました。

死後

死後、句友である横山白虹によって『不器男句集』が編纂され、その才能が広く知られるようになりました。白虹は不器男を「彗星の如く俳壇の空を通過した」と評しています。

郷里の松野町では、毎年命日に「不器男忌俳句大会」が開催され、生家は記念館として公開されています。また、芝不器男俳句新人賞が設けられるなど、その功績は今も称えられています。

作品の特徴と評価

不器男の句は、古語を生かした情趣の深い作風が特徴です。新興俳句運動の勃興期にあって、伝統俳句に新たな息吹を吹き込んだ点が高く評価されています。写生の対象としての外界の風物を、自身の内面で独自の静謐な時間性のうちに捉えなおすことに特色があるとされ、内田慕情はこれを「情懐の写生」と呼びました。

代表句としては、

永き日のにはとり柵を越えにけり
麦車馬におくれて動き出づ
向日葵の蘂を見るとき海消えし
あなたなる夜雨の葛のあなたかな
卒業の兄と来てゐる堤かな
白藤や揺りやみしかばうすみどり
* 一片のパセリ掃かるゝ暖炉かな

などがあります。

特に「あなたなる夜雨の葛のあなたかな」は、高浜虚子の名鑑賞で知られ、石田波郷は「不器男の句には幽惋なる情趣、遊子のかなしみがある」と評しています。

絶筆となった「一片のパセリ掃かるゝ暖炉かな」は、病床の不器男を慰めるために開かれた句会で作られたもので、句友たちの友情が偲ばれます。

芝不器男は、短い生涯の中で独自の俳句世界を確立し、後世に大きな影響を与えた俳人です。

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