芝右衛門狸

芝右衛門狸の伝説

芝右衛門狸（しばえもんたぬき）は、兵庫県淡路島に伝わる名高い狸の妖怪で、佐渡島の団三郎狸、香川県の太三郎狸と並び日本三名狸の一つに数えられています。この狸にまつわる物語は江戸時代の奇談集『絵本百物語』にも記されています。

淡路島の伝説

芝右衛門狸は洲本市の三熊山の頂上に住んでおり、その妻のお増（おます）と共に暮らしていました。特に満月の夜には彼らは元気いっぱいに腹鼓を打ち鳴らし、周囲の人々からも愛されていました。怪しげなことに、彼は人間に姿を変えては木の葉を金貨に見立て、買い物を楽しむといういたずら好きな一面も持っていました。しかし、悪戯ばかりではなく、迷い込んできた人間を親切に導くこともあり、地域の人々から恨まれることはありませんでした。感謝の印として、彼の住処に一升徳利が捧げられることもあったのです。

ある日、芝右衛門は浪速（現在の大阪）で開催される人気の芝居を見たくなり、お増を伴い人間の姿に変わって訪れました。初めての大阪を楽しむ中で、2匹は化け比べを始めます。お増が大名行列に姿を変えると、芝右衛門も続きますが、なんと本物の行列であったため、お増は無情にも斬られてしまいました。悲しみに暮れた芝右衛門は、最後にお増が見たがっていた芝居を見ることに決めますが、入場料を木の葉で支払う際、怪しむ者たちに犬を見張らせられることとなります。

藩邸での悲劇

運命に翻弄された芝右衛門は、劇場に向かう途中で油断から犬に襲われ、タヌキの姿に戻ってしまいます。人々に追われ、ついには致命的な一打を受けて命を落としてしまいました。淡路島に帰ると、彼の死が噂となり、人々は追悼の意を示します。その後、中座では客足が減少し、この不運を「芝右衛門を殺した祟り」として祀られることになりました。

芝右衛門の祈願

芝右衛門の祀りは、後に多くの有名な役者たちに対する信仰の対象となり、彼らの寄付によって洲本市に祠が建立されました。現在、その祠は三熊山の頂上近くにあり、芝居好きな芝右衛門の伝説は今もなお芸能人に信仰される存在であり続けています。2000年には「柴右衛門大明神」が洲本八幡神社に戻され、語り継がれる存在となりました。

徳島県の伝説

一方、徳島県では江戸時代に観音寺において芝居興行が行われ、そこで起こった出来事が芝右衛門狸と結びついています。犬たちが興行の途中、観客に襲い掛かり、最終的には血まみれのタヌキの姿に変わるという事件が起きました。このことから、芝右衛門狸が淡路島から阿波に訪れていたのではないかとの噂が立ちました。

絵本百物語による解説

『絵本百物語』には、芝右衛門という農民がタヌキに施しを行う話が載っています。この老いたタヌキが人間に化けることで、芝右衛門は知恵を授かり、次第に周囲の人々から尊敬される存在になっていく過程も描かれています。

芝右衛門狸にまつわる作品

このような伝説は後の小説や話に影響を与え、多くの作品に登場することになりました。特に京極夏彦の小説『芝右衛門狸』はその一例です。

芝右衛門狸の伝説は、単なる妖怪の物語を超えた人間の感情や信仰の深さを語るものでもあります。

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