花ざかりおトラさん

花ざかりおトラさん：勘違いと騒動、そして新たな仲間

1958年4月1日、東宝系で公開されたモノクロ映画『花ざかりおトラさん』は、軽妙洒脱なユーモアとテンポの良い展開で観客を魅了する『おトラさん』シリーズの第3作目です。58分というコンパクトな上映時間の中に、笑いとハラハラドキドキが凝縮されています。

本作では、物語が大きく二つのパートに分かれています。前半は、主人公おトラさんと夫牛三を取り巻く、浮気騒動劇。後半は、娘トリ江の伊豆大島旅行にまつわる、おトラさんの心配と騒動が描かれます。

前半は、牛三の浮気疑惑から始まります。長さんの家の2階に引っ越してきた小唄の師匠と牛三の仲が怪しいという噂が流れ、おトラさんの勘が働き、長さんの店に駆けつけます。そこで目撃したのは、小唄を歌う牛三と師匠の姿。おトラさんは激怒しますが、そこに現れたのは丹前姿の男性、なんと牛三の勤める辰巳商事の社長でした。実は、小唄の師匠は社長夫人であり、牛三の浮気はただの勘違いだったのです。おトラさんの心配は、ひとまず解消されます。

後半は、トリ江が放送局の仕事で伊豆大島へ行くことになり、おトラさんの新たな心配事が登場します。トリ江の同僚である上月も同行するという情報に、おトラさんは気が気ではありません。「郷里に帰る」と嘘をつき、こっそりトリ江の後をつけようとするのですが、旅行は延期になってしまいます。この突然の事態に、おトラさんは落胆します。

一方、日野江家では、おトラさんの顔見知りである小西得郎が、おトラに縁談を持ちかけます。相手は、なんとおトラに似た容貌を持つ「柳田金太郎」という男性です。この見合いは、なんとトリ江の旅行が延期されたため、大島へ向かう船の上で行われることになります。

船上では、のど自慢大会が開催され、賑やかな船旅が展開されます。その一方で、船室ではおトラと金太郎の見合いが行われています。甲板では、馬子が小西に二人の様子を尋ねるなど、様々な出来事が同時進行し、物語に動きを与えます。

本作から新たに加わったレギュラーキャラクター、山崎屋は、「山崎屋でござァい！」というギャグで人気を博し、シリーズに新たな魅力を加えています。また、ラストシーンでは、おトラさんと金太郎（金語楼二役）が一つの画面に収まり、シリーズ1作目では見られなかった貴重なシーンが展開されます。これは、この作品ならではの大きな見どころと言えるでしょう。

スタッフ、キャスト陣も豪華です。製作は富岡敦雄、原案は西川辰美、原作は有崎勉（柳家金語楼）、脚本は新井一と和田勝美、音楽は小田基義と若山浩一、撮影は栗林実、美術は島康平、照明は森康、録音は西尾昇と、多くの才能が集結しています。

主演の柳家金語楼をはじめ、有島一郎、水の也清美、川田孝子、日吉としやす、若水ヤエ子、小桜京子、柳沢真一、大辻三郎、平凡太郎、谷村昌彦、太刀川洋一、坪内美詠子、小西得郎など、個性豊かな俳優陣の演技も、作品の魅力を高めています。

『花ざかりおトラさん』は、軽妙な笑いと、おトラさんの人情味あふれる姿、そして予測不能な展開が魅力の、東宝映画の隠れた名作です。シリーズファンはもちろん、初めて観る方にも、その魅力が伝わる作品と言えるでしょう。

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