花氷 (松本清張)

花氷

『花氷』（かひょう）は、松本清張による長編小説で、1965年から1966年にかけて『小説現代』で連載され、1966年11月に講談社から出版されました。この作品は、政界に張り巡らされた利権を利用して一攫千金を狙う不動産ブローカーの野心を描いています。ピカレスク・サスペンスとして、悪事に手を染めた主人公がどのように社会の裏側を渡り歩くのか、その緊張感に満ちたストーリーが展開されています。また、1982年にはテレビドラマとしても放送され、大きな注目を集めました。

あらすじ

東京・赤坂の寿司屋にて、粕谷為三はかつての愛人・霜井登代子と偶然再会します。この出会いをきっかけに、彼は登代子が多額の資金を持っているのではないかと考え、彼女を利用することを企図します。現在の彼の生活は、元バーの女・川崎恵美子との同棲関係にありましたが、彼女に対する興味は次第に薄れていました。

ある日、粕谷は新宿の二幸裏のバーで、不動産業界の仲間から、九州出身の代議士・古賀が選挙資金の調達に苦労しているという情報を耳にします。そこから、彼は底辺から這い上がるための巧妙な計画を思いついていきます。不器用な銀行員・坂本が登代子に恋心を抱いていることを知った粕谷は、この人物を操って彼女に近づこうとします。さらに、坂本の上司であり、東陽銀行の支店長である黒川を巻き込むことで、政界の実力者・高井派の利権に食い込むチャンスをうかがいます。

粕谷の策略は、埼玉県・岩槻の分譲地の買収から始まり、やがて広大な国有地の払い下げ計画へと発展します。彼の思惑通りに物事が進むうちに、一攫千金の可能性が広がりますが、その裏にはさまざまな人間ドラマと巧妙な計画が潜んでいます。

主な登場人物

• - 粕谷為三: さまざまな職業を経て、池袋の「栄楽不動産株式会社」の専務を務めます。人を利用することを常に考えている野心家。
• - 霜井登代子: 元洋品店の女房で、かつて粕谷に唆されて夫を捨てた過去を持つ女性。
• - 坂本吉雄: 東陽銀行不動産部の課長。登代子に資産運用の相談を通じて出会う。
• - 川崎恵美子: 現在の粕谷の同棲相手。
• - 井本正子: 新宿二幸裏のバーのマダム。
• - 古賀重蔵: 九州出身の代議士で、高井派に属します。
• - 高井市郎: 日本の政界における実力者の一人。
• - 黒川千太郎: 東陽銀行の支店長で、出世を目指しながら不良貸付の処理に苦しんでいます。
• - 坂本常子: 坂本吉雄の妻です。

テレビドラマ

この作品は1982年3月30日に日本テレビの「火曜サスペンス劇場」で放送されました。主人公粕谷を演じたのは近藤正臣で、他にも風吹ジュン、MIE、長谷川哲夫といった俳優陣が出演しました。視聴率は21.0%を記録し、多くの視聴者の関心を集めました。ドラマ版では、主人公が二人の女性を操りながら野望を遂げようとする様子と、その結末が描かれています。

このように『花氷』は、松本清張の独特な視点と緊張感あふれるストーリーによって、現代にも多くの人々に読み継がれています。作品を通じて、権力と欲望の渦の中で人間がどのように振る舞うのかがリアルに描かれています。

もう一度検索