花田清輝

花田清輝：時代を駆け抜けたアヴァンギャルドの旗手

花田清輝（1909年3月29日 - 1974年9月23日）は、作家、文芸評論家として、その巧みなレトリックと批評精神で、日本の文学・芸術界に大きな影響を与えた人物です。アヴァンギャルド芸術論の先駆者として、戦後の文化復興期において独自の思想を展開しました。

生い立ちと初期の活動

福岡県福岡市で生まれた花田は、旧制福岡中学時代には柔道に熱中する一方で、短歌を新聞に投稿するなど、文芸への関心も抱いていました。鹿児島の第七高等学校に進学すると、西田哲学に傾倒し、寮誌『白光』を創刊するなど、早くから文才を発揮しました。しかし、読書に熱中するあまり、二度の落第を経て退学。その後、九州帝国大学の聴講生を経て、京都帝国大学文学部に選科生として入学しました。この時期には、小説や戯曲の執筆も行い、『サンデー毎日』の大衆文芸で入選を果たすなど、作家としての才能も開花させました。

しかし、父親の事業失敗により学費が払えなくなり、京大を退学せざるを得なくなります。その後、上京し、翻訳の下請けや朝鮮人ジャーナリストの秘書などを務めながら、文筆活動を続けました。

戦前・戦中の活動

1935年、花田は満洲に渡り、朝鮮人のコロニーを取材。その後、東方会の機関誌『我観』に時事論文を執筆するなど、社会批評にも積極的に関与しました。また、雑誌『世代』や『現代文学』に文芸論を発表。1939年には『東大陸』の実質的な編集長となり、中野正剛から資金援助を受けて機関誌『文化組織』を創刊し、独自の文化論を展開しました。これらの活動は、戦後、吉本隆明との論争において「東方会の下郎」と批判される根拠となりました。戦時中は、林業新聞社や軍事工業新聞社などで記者や社説の執筆を行いながら、文筆活動を続けました。

アヴァンギャルド論の展開

敗戦後、花田は出版社・真善美社の編集顧問となり、『我観』を改題した『真善美』の編集に参加。戦中のエッセイ『復興期の精神』や『錯乱の論理』などを刊行し、注目を集めました。特に、『二つの世界』に収録された「砂漠について」は、安部公房の『砂の女』に影響を与えたとされています。また、「アプレゲール新人創作選」を出版し、「アプレゲール」という言葉を一般化させました。同時期に、加藤周一らと「綜合文化協会」を結成し、機関誌『綜合文化』を発行。さらに、「夜の会」や「未来の会」にも参加するなど、活発な文化活動を展開しました。1949年には日本共産党に入党し、戦後文学賞の選考委員も務めました。

1950年代からは、美術、映画評論にも力を注ぎ、『アヴァンギャルド芸術』などの著書は、若い世代に強い影響を与えました。1957年には「記録芸術の会」を結成し、総合芸術・共同制作の実現を目指しました。また、演劇運動にも関わり、「三々会」を結成するなど、多岐にわたる活動を展開しました。

論争と晩年

花田は、その生涯を通して、様々な論争に関わりました。1955年には高見順との「ゴロツキ論争」、1956年には荒正人や埴谷雄高らとの「モラリスト論争」、そして、吉本隆明との転向や戦争責任問題を巡る激しい論争は、当時の思想状況を反映するものでした。1961年には、日本共産党を除名されますが、1966年には新日本文学会議長に選出されました。

晩年は、戯曲や小説の執筆に力を注ぎました。1958年には長編戯曲『泥棒論語』を発表し、週刊読売新劇賞を受賞。また、1960年からは歴史小説の執筆も始め、『鳥獣戯話』で毎日出版文化賞を受賞しました。花田は1974年9月に脳出血で亡くなるまで、その旺盛な創作意欲は衰えることはありませんでした。

花田清輝は、その多岐にわたる活動を通じて、戦後の日本文化に大きな影響を与えた人物です。彼の作品は、今もなお、多くの人々に読み継がれています。彼の遺した膨大な著作は、『花田清輝著作集』や『花田清輝全集』としてまとめられ、今日でもその思想と芸術に触れることができます。

花田清輝の息子は東北大学金属材料研究所教授の花田黎門であり、アニメ脚本家の花田十輝は孫にあたります。

花田清輝の業績は、日本の戦後文化を語る上で欠かすことのできない重要な要素です。

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