荒正人

荒 正人（あら まさひと）

荒 正人は1913年1月1日に福島県相馬郡鹿島町（現在の南相馬市）で生まれた日本の文芸評論家です。彼は旧制山口高等学校に通っている際に佐々木基一と出会い、共にマルキシズムに基づく学生運動に参加し始めました。1938年、東京帝国大学英文科を卒業した後は、東京新聞の文芸評論委員として活動を開始しました。

来歴と活動

戦後、荒は埴谷雄高や平野謙、佐々木基一、本多秋五、山室静などと共に『近代文学』を創刊しました。彼は「第二の青春」を含む多くの評論を執筆し、加藤周一や中野重治との間で世代論や知識人論をめぐって激しい論争を交わしました。特に、夏目漱石の研究においては高い評価を受け、1975年には『漱石研究年表』で毎日芸術賞を受賞しています。ただし、この年表には誤記が多いとの指摘もあり、その評価には賛否が分かれています。

1979年6月9日、彼は法政大学文学部英文学科の教授として教鞭をとっている最中に、東京都杉並区の駒崎病院で脳血栓により66歳で亡くなりました。彼の死後も、著作集の形で彼の業績が残されています。

荒はまた、北欧文学に関しても深い見識があり、山室静と共にアイスランドを訪れ、ノーベル賞作家ハルドル・ラクスネスとの交流も持ちました。さらに彼は推理小説を好み、このジャンルに関する著書や翻訳も数多く手がけています。特に、江戸川乱歩賞の選考委員を務め、西村京太郎を発掘したことで知られています。また、初期の日本SF小説における理解者としても名を馳せました。

家族と影響

英文学者の植松みどりを長女に、アメリカ文学者の荒このみを次女に持ち、学問に関する家族の伝統を築いていきました。また、彼の親戚には新左翼党派「戦旗・共産主義者同盟」の元代表、荒岱介氏がいます。

著作

荒正人の著作は多岐にわたり、以下のような代表作があります。

• - 『第二の青春』（八雲書店、1947年）
• - 『負け犬』（真善美社、1947年）
• - 『戦後文学の展望』（三笠書房、1956年）
• - 『夏目漱石』（五月書房、現代作家論全集、1957年）
• - 『漱石研究年表』（集英社、1974年）
• - 『夏目漱石 「こころ」を見つめて』（岩崎書店、1986年）

さらに、編著や共著としても様々な作品を手掛けており、たとえば『戦後批評集 近代文学篇』（双樹社、1949年）や『推理小説への招待』（南北社、1959年）などがあります。また、翻訳でも多くの作品を世に送り出しており、キャプテン・クックの『太平洋航海記』やイーデン・フィルポッツの『闇からの声』などが代表的な例です。

荒正人は、戦後日本文学の重要な一翼を担った傑出した文芸評論家であり、彼の業績は今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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