芳春院殿

芳春院殿：戦国を生き抜いた女性の生涯

芳春院殿（ほうしゅんいんでん）は、生年不詳ながらも、戦国時代に生きた女性です。北条氏綱の娘として生まれ、古河公方・足利晴氏に嫁ぎました。彼女の生涯は、戦国時代の動乱と、北条氏と古河公方家の複雑な関係に深く関わっています。

生い立ちと婚姻

芳春院殿の生年は、大永年間から享禄年間（1521年〜1536年）と推測されていますが、正確な記録は残っていません。母親についても諸説あり、北条氏綱の正室である養珠院殿や、側室であった可能性のある遠山直景の娘など、特定には至っていません。

天文7年（1538年）の国府台合戦で勝利した北条氏綱は、古河公方家との関係を強化するため、娘である芳春院殿を足利晴氏に嫁がせることを決めました。しかし、当時の古河公方家には正妻を置く慣習がなく、彼女は当初、妾として扱われました。さらに、既に簗田高助の娘が晴氏の妾となっていたため、婚姻は複雑な状況となりました。氏綱は、簗田高助に仲介を依頼し、その上で高助父娘を粗略に扱わないことを約束し、ようやく天文9年（1540年）11月に芳春院殿は晴氏に嫁ぐこととなりました。

出産と古河公方家の内紛

芳春院殿は婚姻から3ヶ月後の天文10年（1541年）1月に嫡男・梅千代王丸（後の足利義氏）を出産したとされていますが、近年の研究では、義氏の生年を天文12年（1543年）とする説も有力です。

しかし、天文14年（1545年）頃から、北条氏康と足利晴氏の関係が悪化し始めます。翌天文15年（1546年）には、晴氏が山内・扇谷上杉家と結んで北条方の河越城を攻めるも大敗を喫してしまいます（河越夜戦）。その後も関係は改善せず、氏康は芳春院殿と梅千代王丸を北条領に移すことを計画します。当初、芳春院殿はこの動きに反対していたものの、最終的には北条氏の支城である葛西城に移されました。

天文20年（1551年）には、山内上杉家の上杉憲政が越後へ逃れると、晴氏はさらに苦境に立たされます。この状況下で、北条氏康は晴氏との和睦を進め、その条件として、芳春院殿を晴氏の正妻として迎えること、そして公方府を芳春院殿と梅千代王丸のいる葛西城に移すことを取り決めました。

この和睦によって、芳春院殿は正式に古河公方家の正妻となり、息子の梅千代王丸は後継者としての地位を確立します。これにより、それまで後継者とされていた簗田高助の娘の子・足利藤氏の立場は逆転しました。しかし、この動きに晴氏は反発し、天文23年（1554年）には葛西城から古河御所に戻って挙兵を試みますが、重臣の反対と北条氏康の介入により失敗、晴氏は幽閉されることになります。

足利義氏の擁立と関宿での最期

北条氏康は梅千代王丸の元服を急ぎ、弘治元年（1555年）に足利義輝から一字を与えられて足利義氏と名乗らせます。これは、本来の後継者であった足利藤氏の正統性を否定する意図があったとされています。

その後、芳春院殿と義氏は、氏康の勧めで鶴岡八幡宮に参詣するなど、北条氏との関係をさらに深めていきます。また、公方府は関宿城に移されます。永禄3年（1560年）には、夫・足利晴氏が病死。その後、芳春院殿は出家したと伝えられています。

しかし、同年秋には、上杉謙信（長尾景虎）が関東に出兵し、足利義氏は関宿からの退避を検討しますが、芳春院殿の反対で動けませんでした。さらに、古河城にいた簗田晴助までもが上杉軍に合流したため、関宿城は包囲されてしまいます。籠城戦が続く中、永禄4年（1561年）7月9日、芳春院殿は関宿で病死しました。

彼女の死後、義氏は関宿城を離れて、小金城に移っています。芳春院殿の位牌所は、東京都文京区の吉祥寺にあります。

まとめ

芳春院殿は、戦国時代の動乱の中で、北条氏と古河公方家の間で翻弄されながらも、息子・足利義氏を古河公方として擁立するために尽力しました。彼女の生涯は、戦国時代の女性の生き方、そして複雑な政治情勢を映し出すものとして、後世に語り継がれています。

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