若山滋

若山滋：建築家としての足跡と多様な視点

若山滋（1947年生まれ）は、日本の建築界に多大な貢献を果たした建築家です。名古屋工業大学名誉教授として後進の育成にも力を注ぎ、建築計画と建築意匠を専門とするその活動は、建築設計にとどまらず、幅広い文化論にまで及びます。

台湾で生まれ、東京都で育った若山氏は、1969年に東京工業大学建築学科を卒業、1974年には同大学大学院博士課程を修了し、工学博士の学位を取得しました。その後、株式会社久米設計に勤務した後、1983年に名古屋工業大学助教授に就任、1989年には教授に昇進します。2011年に名古屋工業大学を退官後は、中京大学と椙山女学園大学で客員教授を務めました。

多岐にわたる建築作品

若山氏の建築作品は、公共施設から民間の建築まで多岐に渡り、それぞれの地域性や文化を深く考慮した設計思想が見て取れます。代表的な作品としては、不二の一文字堂、高萩市立図書館・歴史民俗資料館、ミャンマー中央農業開発センター、筑波科学万博政府出典歴史館、碧南市哲学たいけん村無我苑、各務原市老人保健施設サンバレーかかみ野、西尾市岩瀬文庫などがあります。これらの作品群からは、氏が建築を単なる建造物ではなく、そこに暮らす人々や地域社会と深く関わる文化的な営みとして捉えていることがうかがえます。

著作活動：建築と文化の深いつながりを探る

若山氏は建築家としての活動に加え、精力的な著作活動でも知られています。1981年の『建築へ向かう旅 積み上げる文化と組み立てる文化』を皮切りに、『風土に生きる建築』『「組み立てる文化」の国』『都市へ向かう旅』など、建築に関する数多くの著書を発表。単なる建築技術論だけでなく、建築と文化、歴史、社会との関連性を深く掘り下げた考察は、建築界のみならず、人文科学分野にも大きな影響を与えました。

さらに、氏の著作は日本の建築だけでなく、古代ローマや長安といった歴史都市、そして『万葉集』や『源氏物語』といった古典文学まで、その視点を広げています。 『ローマと長安 古代世界帝国の都』、『文学の中の都市と建築 『万葉集』から『源氏物語』まで』といった作品は、建築と文化、歴史を横断的に考察する、氏の広い視野を示すものです。また、近代日本の建築や都市文化をテーマにした『漱石まちをゆく 建築家になろうとした作家』、『寡黙なる饒舌 建築が語る東京秘史』など、時代やテーマを問わず多様な視点から建築を論じています。

若山氏は、トヨタ生産方式を確立した大野耐一の思想にまで言及した『大野耐一工人たちの武士道 トヨタ・システムを築いた精神』といった、一見建築とは無関係に見えるテーマにも取り組み、常に新しい視点を提示し続けています。

普遍的なテーマを探求する建築家

若山滋の建築家としてのキャリアは、単なる建築物の設計を超え、建築を通して人間の文化や歴史、社会構造を探求する旅でした。数々の作品と著作は、建築の枠を超えた普遍的なテーマを提示し、私たちに多くの示唆を与え続けています。美術家の篠田桃紅氏を叔母に持ち、藤井理行氏（元国立極地研究所所長）を高校・大学の同級生とするなど、豊かな人間関係もまた、氏の多様な視点形成に影響を与えたと言えるでしょう。 若山氏の功績は、これからも建築界に、そして広く文化史に影響を与え続けることでしょう。

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