大野耐一

大野耐一：トヨタ生産方式の創始者

大野耐一（おおの たいいち）は、1912年2月29日に生まれ、1990年5月28日に没した日本の技術者、経営者です。トヨタ自動車工業（現トヨタ自動車）の元副社長として、生産管理の分野で革新的な業績を残しました。彼が体系化した「トヨタ生産方式（Toyota Production System, TPS）」は、かんばん方式を核とし、世界中の製造業に多大な影響を与えています。

生い立ちとキャリア

大野は、中国の大連市で生まれ、旧制愛知県立刈谷中学校、名古屋高等工業学校（現・名古屋工業大学）を卒業後、1932年に豊田紡織（現：トヨタ紡織）に入社しました。太平洋戦争中の1943年には、トヨタ自動車工業に転籍し、機械工場長、取締役などを歴任しました。

トヨタ生産方式の原点

トヨタ生産方式の根幹には、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎が提唱した「ジャストインタイム（Just in Time）」の思想があります。この概念は、必要なものを、必要な時に、必要なだけ生産するという考え方です。大野はこの「ジャストインタイム」を徹底的に追求し、生産現場における無駄を排除するシステムを構築しました。

豊田喜一郎は、「インタイム」を「間に合わせる」と捉え、そこからさらに「まさに間に合う（ジャストインタイム）」という考えに至りました。これは、公共交通機関のような「オンタイム（適時に）」の運行とは異なり、工業生産においては需要変動に対応し、無駄をなくす必要があるという認識に基づいています。

大野の革新的な実践論

大野は、従来の近代的工業生産のイメージとは一線を画す、以下のような実践論を展開しました。

ライン停止の重視：工程異常が発生した場合、製造ラインを停止させてでも問題解決に当たる。
計画達成の徹底：生産計画は100%達成を前提とし、それ以上の出来過ぎは存在しない。

これらの実践論は、従来の生産システムにおける「スピーディー・スムーズ・エクセレント」といった観念にとらわれず、生産現場の効率性を最大限に高めることを目指しています。この思想は、トヨタグループの工業生産における生命線として、現在も実践され続けています。

著書と影響

大野は、自らの生産思想を広く世に知らしめるため、1978年に著書『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして―』を出版しました。この著書は、多くの企業に影響を与え、トヨタ生産方式が世界的に普及するきっかけとなりました。

死後と栄誉

大野は、トヨタ自動車の米国戦略ブランドである「レクサス」の発展を見ることなく、1990年に逝去しました。彼の業績は高く評価され、生前には藍綬褒章、勲三等旭日中綬章を受章しました。没後には、日本自動車殿堂と米国自動車殿堂の両方で殿堂入りを果たしています。

大野の遺産

大野耐一が体系化したトヨタ生産方式は、今日の製造業における標準的な生産管理手法の一つとなっています。彼の思想と実践は、単なる生産効率の向上にとどまらず、品質向上やコスト削減、さらには顧客満足度の向上にまで貢献し続けています。大野の功績は、今後も長く語り継がれていくでしょう。

大野と関係の深い人物

大野一造：大野耐一の父であり、トヨタグループを刈谷市に誘致した衆議院議員。
鈴村喜久男：トヨタ自動車生産調査室元主査であり、大野の一番弟子。
張富士夫：トヨタ自動車第9代社長であり、大野の弟子。
楠兼敬：日野自動車工業元会長であり、大野の弟子。
好川純一：トヨタ紡織元会長であり、大野の弟子。
林南八：トヨタ自動車元技監であり、大野の弟子。

大野が指導した企業

* 第一汽車：大野が直接指導を行った中国の自動車メーカー。

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