若林鉱

若林鉱：日本の地質学史に輝く、鮮やかな黄色の結晶

1970年、日本の地質学研究に新たな1ページが刻まれました。群馬県下仁田町に位置する西ノ牧鉱山で、鮮やかな黄色の輝きを放つ新鉱物が発見されたのです。この鉱物は、後に「若林鉱（わかばやしこう、Wakabayashilite）」と名付けられ、日本産新鉱物として世界にその存在を認められました。

発見の立役者は、国立科学博物館の加藤昭氏をはじめとする研究者たちです。彼らが発見したこの鉱物は、その独特の結晶構造と化学組成から、既存の鉱物とは異なる新種であると判明しました。

若林鉱の命名は、日本の鉱物学に多大な貢献を果たした故・若林弥一郎氏への敬意を表したものです。若林氏は三菱鉱業の鉱物学者として活躍し、膨大な鉱物コレクションを残しました。そのコレクションの中に、後に若林鉱と同定される標本が含まれていたという事実は、この新鉱物の発見をさらに興味深いものとしています。

若林鉱は、(As,Sb)11S18という化学式で表される硫化鉱物です。単斜晶系に属し、硬度は1.5と比較的柔らかく、鮮やかな黄色を呈する針状または繊維状の結晶を形成します。特筆すべきは、その高い可撓性です。結晶は容易に曲がるため、自然界では曲がった形状で産出されることが多いのです。また、4方向に完全な劈開を示すものの、結晶が非常に細いため、その劈開を確認するのは容易ではありません。

発見当初は「針状雄黄」と誤認されていた若林鉱ですが、精密な分析の結果、新鉱物として記載される運びとなりました。その際、東京大学総合研究博物館に所蔵されていた若林コレクションの中に、西ノ牧鉱山産雄黄とされていた標本が、実は若林鉱であったことが判明したのです。この発見は、過去の標本コレクションの再検討の重要性を示す好例と言えるでしょう。

西ノ牧鉱山は、既に閉山しています。そのため、現在市場に出回っている若林鉱の標本は、主にアメリカ合衆国ネバダ州などの他の産地からの産出物です。希少性が高く、コレクターの間では大変人気のある鉱物となっています。

若林鉱の発見は、日本の地質学研究の進歩を示すだけでなく、過去の研究成果の再評価や、鉱物標本コレクションの重要性を改めて認識させる出来事でした。その鮮やかな黄色と、複雑な結晶構造を持つこの鉱物は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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