若狭徹 (野球)

若狭 徹

若狭 徹（わかさ とおる、1963年3月19日 - ）は、石川県出身の元プロ野球選手。主に内野手としてプレーしました。

彼の野球人生で特筆すべきは、その高校時代にあります。石川県の強豪、星稜高等学校で過ごした日々は、伝説的な一戦と共に記憶されています。高校2年生だった1979年、第61回全国高等学校野球選手権大会に出場。大会史に深く刻まれた3回戦、対箕島高校との一戦は、延長18回に及ぶ死闘となりました。この試合の延長14回裏、一死三塁というサヨナラ負けの絶体絶命のピンチで、三塁を守っていた若狭は、機転を利かせた隠し球によって三塁走者をアウトにし、チームを危機から救いました。

このプレーについて、若狭自身は当時、打席で5三振を喫するなど自身の打撃不振に苛まれており、「ここで何か一つチームに貢献できることをしてやろう」という強い思いがあったことを後に語っています。また、チームメイトからは「トリッキーなプレーを好む選手」として知られており、若狭本人も「人と同じことをするよりも、違ったことをするのが好きだ」と述べています。隠し球は練習試合でも頻繁に試みており、成功と失敗を繰り返しながら、ボールを腋の下や股の間に隠す練習を重ねていたといいます。このエピソードは、彼の野球に対するユニークなアプローチと、非常事態における冷静な判断力を物語っています。

高校での活躍は、夏の甲子園だけにとどまりませんでした。同年秋に宮崎県で開催された第34回国民体育大会の2回戦では、後のプロ野球界を代表する投手となる浪商高校のエース、牛島和彦と対戦。この強敵から、当時高校野球ではまだ珍しかった木製バットを使い、見事バックスクリーンへ本塁打を放ちました。この一打が、プロ野球・中日ドラゴンズのスカウトの目に留まる決定打となり、彼のプロ入りへと繋がっていきます。

1980年オフ、若狭はドラフト外で中日ドラゴンズに入団しました。奇しくも、高校時代に本塁打を放った牛島和彦も中日ドラゴンズに入団しており、二人は再びチームメイトとして同じユニフォームを着ることになります。

しかし、プロ野球選手としてのキャリアは、残念ながら短いものとなりました。中日ドラゴンズでの3年間（1981年から1983年）、若狭は一度も一軍の公式戦に出場することなく、1983年限りで現役を引退することを決断します。わずか3年でのユニフォーム引退という短い選手生活に区切りをつけた理由の一つとして、翌1984年から、同じ三塁のポジションを守る将来有望な内野手、藤王康晴が球団の地元である愛知県の享栄高校から入団することが決まっていた影響があったとされています。プロの世界でレギュラーを争う厳しい現実を前に、自らの進退を決めたのでしょう。

プロ野球選手としては短い期間でしたが、若狭は野球界から完全に離れることはありませんでした。現役引退後、彼は中日ドラゴンズの球団職員に転身し、その後長年にわたり球団を支え続けています。そして、その功績が認められ、2022年には中日ドラゴンズ野球振興本部野球振興部部長として、他の球団職員と共に球団功労賞を受賞しました。これは、選手としてではなく、組織の一員としてチームに貢献し続けた彼の努力と実績が正当に評価された証と言えるでしょう。

若狭徹の野球人生は、高校時代の鮮烈なエピソードと、プロでの短い期間、そして引退後の球団への長年の貢献という、いくつかの側面を持っています。特に「箕島対星稜」戦での隠し球は、野球ファンにとって忘れられない名場面の一つであり、彼の機知と勇気を今に伝えています。短い選手生活ではありましたが、引退後も球団職員として野球振興に尽力する姿は、野球への深い愛情を示しています。

背番号はプロ在籍期間の1981年から1983年まで「52」でした。

参考文献として、松下茂典氏の著書『神様が創った試合』や、山際淳司氏の著作『スローカーブを、もう一球』に収録された「八月のカクテル光線」などが、彼の高校時代の活躍について触れています。

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