若生謙二

若生 謙二

（わこう けんじ、1954年 - ）は、大阪府出身の日本の造園学者、動物園研究者です。現在、大阪芸術大学芸術学部環境デザイン学科において学科長を務め、教授として教育・研究活動を行っています。

経歴

若生氏は、1976年に信州大学農学部旧林学科を卒業後、1978年に同大学院農学研究科修士課程を修了しました。その後、印刷会社に勤務しながら研究活動を続け、動物観、動物園、自然風景式庭園、そしてニューヨークのセントラルパークなどに関する知見を深めました。この間、「日米における動物園の発展過程に関する研究」に取り組み、1993年に東京大学より農学博士の学位を取得しています。

1994年、大阪芸術大学環境計画学科の助教授に就任。教育者としての道を歩み始めました。研究者としては、天王寺動物園の将来構想「ZOO21」計画の策定に携わり、1995年からはその実現に向けて尽力します。この計画では、動物の生態をより自然に近い形で展示する「生態展示」の導入を重視し、斬新な動物園デザインを数多く手がけました。この取り組みは高く評価され、1999年には天王寺動物園再整備計画が日本造園学会賞を受賞しました。

2000年にはハーバード大学ダンパートンオークス研究所で在外研究に従事し、国際的な視点からの研究も深めました。また、学会活動にも積極的に参加しており、2007年から2008年には日本造園学会の常務理事学術委員長を、2008年から2009年にはヒトと動物の関係学会の常任理事事務局長を務めました。

天王寺動物園との深い関わり

若生氏が天王寺動物園の改革に関わるきっかけとなったのは、1990年代初頭に持ち上がった大阪市内の多目的ドーム建設を巡る議論でした。東京ドームの成功を受け、大阪財界が新たなドーム建設を計画する中で、建設候補地の一つとして天王寺公園が挙げられました。

当時、藤井寺球場から本拠地を移転予定だったプロ野球球団近鉄バファローズは、大阪阿部野橋駅に近く、自社系列の商業施設が集まる天王寺公園への建設を強く支持しました。しかし、この案に対して大阪市は、公園面積の縮小や、園内にある天王寺動物園の移転先確保とその巨額な費用負担などを理由に難色を示しました。さらに、地元住民や新世界などの商店主からも動物園移転に反対の声が上がったため、最終的に天王寺公園でのドーム建設案は断念されました。

この一連の騒動を機に、天王寺動物園は今後の明確な方向性を示す必要性を痛感しました。そこで、動物園学の第一人者である若生氏に園の改革が依頼されます。これに応える形で若生氏が中心となって発案・推進したのが、将来構想「ZOO21」計画です。この計画のもと、生態展示への転換や施設のリニューアルが進められ、現在、天王寺動物園は「最も動物の生態が見られる動物園」の一つとして広く認識されるに至っています。

嵐山鵜飼の鵜小屋設計

若生氏は、天王寺動物園以外にも、公共空間や動物関連施設のデザインに貢献しています。その代表的な事例の一つが、京都嵐山の鵜小屋設計です。2017年、鳥インフルエンザの感染拡大により、嵐山通船が所有する多くの鵜が死亡し、伝統ある鵜飼事業の継続が危ぶまれる事態となりました。この危機を受け、山階鳥類研究所の奥野卓司博士や当時の門川大作京都市長らが主導し、秋篠宮文仁親王を名誉総裁として推戴し、2018年に「嵐山鵜飼観光文化振興協会」が設立されました。

協会の看板事業として、感染症対策を徹底強化した新しい鵜小屋を嵐山（中之島公園内）に建設する計画が立ち上がります。この重要な施設のデザイン設計者として白羽の矢が立てられたのが若生氏でした。若生氏が設計した鵜小屋は、屋根を大胆にカットすることで外部から鵜の生態を観察できる開放的な構造を取り入れつつ、周辺の景観に調和する近代和風建築として設計されています。感染症対策と景観、そして生態観察という複数の要素を高次元で融合させたこの鵜小屋は、若生氏の代表的な建築作品の一つとされています。

著書・翻訳

研究活動の成果は多くの著作や翻訳としても発表されています。主な著書に、動物園のあり方を問い直した『動物園革命』（岩波書店、2010年）があります。また、ニューヨークのセントラルパークに関する古典的な研究書であるエリザベス・バーロー・ロジャーズ著『よみがえるセントラルパーク 管理と復元計画』（ソフトサイエンス社、1994年）の翻訳も手がけています。これらの著作活動を通じて、造園学、動物園研究、そして人と自然や動物との関係性に関する幅広い知見を社会に発信しています。

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