若者と死 (ギュスターヴ・モロー)

ギュスターヴ・モローの『若者と死』

『若者と死』はフランスの象徴主義画家、ギュスターヴ・モローによって1856年から1865年にかけて制作された作品である。この絵画は、モローが敬愛していた画家テオドール・シャセリオーに対するオマージュとして位置づけられている。

制作の背景

シャセリオーは新古典主義の巨匠ドミニク・アングルの門下で修行を始め、若くして才能を発揮した画家であった。しかし、彼はロマン主義に興味を持ち、その影響を受けつつ独自のスタイルを模索した。モローは、彼の壁画や作品に感銘を受け、より深い関係を築くためにアトリエを借りて交流を図った。1848年のシャセリオーの壁画への感動が、モローの画家としての道を固める重要な要素になった。

シャセリオーが37歳という若さで急逝した際、モローは彼の死を受けて一刻も早く作品の制作に着手した。彼は友人に宛てた手紙で、制作の進行状況を幾度も報告しており、作品は1865年のサロンに出品され、評価を得た。

作品の解説

『若者と死』の中心には、半裸の青年が描かれている。彼は右手に黄色の水仙の花を持ち、左手には月桂冠を掲げている。その背後には女性の姿をした「死」の擬人化が浮遊しており、彼女は美しい髪飾りを身につけ、静かに右腕に剣を抱き、左手には砂時計を持つ姿が印象的である。青年は、古代の衣装をまとい、まるで永遠を象徴しているかのような存在感を持っている。

青少年が持っている水仙は冥府の女王ペルセポネと結びつき、死を暗示する象徴である。さらに、聖霊の消えかかった松明も、死への道を示している。このように、全体の構図には強い寓意が込められている。また、画面の左下には「テオドール・シャセリオーの思い出とともに」という詩句が記されていることからも、彼への感情的なつながりが伺える。

モローのキャリアの初期において、死のコンセプトを描くための主題として、従来の西洋美術に見られる骸骨や死神の図像を考慮していた。だが、彼は制作過程の中で、その視覚的な表現を女性の姿に代えた。これは、シャセリオーの死の意味をより深い感情によって表現するための試みであった。

モローはまた、ミケランジェロの『夜』やポンペイからの古代の壁画の影響を受けており、浮遊する女性像を描くことで、古代の美しさを表現したかったと考えられる。この浮遊感はいくつかの彼の作品で何度も見られるテーマである。

来歴

『若者と死』はサロンで発表された当初、批評家からの賛否を呼び起こした。多くの人々が描かれた人物がまだ記憶に新しいことから、神格化された存在を描いたことに疑問を持ったのだ。しかし、この作品は時が経つにつれ、モローの代表作の一つとして評価されるようになった。

その後、この絵画は数回の所有者変更を経て、最終的にはハーバード大学のフォッグ美術館に収蔵された。一方、別に制作された水彩画のヴァリアントも、ルーヴル美術館や個人コレクションに保管されている。

結論

『若者と死』はモローにとって非常に重要な作品であり、彼の芸術的な成長の象徴でもある。青年の姿には芸術家としての栄光と、死の訪れとの間にある緊張感が巧みに表現されており、絵画が持つ多層的な意味合いは、見る者に深い印象を与え続けている。

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