英国原子力公社警察隊

英国原子力公社警察隊（UKAEAC: United Kingdom Atomic Energy Authority Constabulary）は、かつて英国原子力公社（UKAEA）の傘下にあった専門的な警察組織です。

組織の概要と役割

1955年4月1日に設置されたUKAEACは、およそ半世紀にわたり英国の原子力安全保障において重要な役割を果たしました。主な任務は、英国原子力公社や英国核燃料会社（BNFL）などが管理する国内主要原子力施設の厳重な警備と、核物質の安全な輸送警備でした。この組織は、原子力関連施設における潜在的な脅威から国民を守るための防衛線として機能しました。

改編とその背景

UKAEACは、設立から約50年間にわたりその任務を遂行してきましたが、2000年代に入り国際的なテロリズムの脅威が増大する中で、従来の警備体制の見直しが迫られました。テロ攻撃に対する脆弱性が指摘されたことを受け、英国政府は原子力関連施設の保安体制強化を図る決定を下しました。これに基づき、2004年エネルギー法が制定され、UKAEACは新たな組織へと改編されることとなりました。2005年4月1日、UKAEACは解隊され、より現代的な保安ニーズに対応するため、民間核施設保安隊（Civil Nuclear Constabulary, CNC）が新たに発足しました。CNCは現在も、国内の原子力発電所を含む16箇所の原子力関連施設の警備や核物質の輸送警備を担っており、その要員の大半はUKAEACから引き継がれた者です。

日本の原子力産業との関わり

UKAEACは、日本の原子力産業とも接点がありました。特に、日本のプルサーマル計画に伴う、英国やフランスから日本へのプルトニウム・ウラン混合酸化物（MOX）燃料の海上輸送において、武装輸送船への警乗警備を担当しました。

日本のプルサーマル計画では、国内の再処理体制が未整備な段階で、使用済み核燃料の再処理とMOX燃料への加工を英国のBNFLやフランスのコジェマ社に委託し、それを再び日本の原子力発電所で利用することになっていました。MOX燃料には核兵器への転用が可能なプルトニウムが含まれるため、その海上輸送は極めて高度な安全対策と厳重な警備が不可欠でした。

1999年、東京電力および関西電力向けのMOX燃料の初回輸送が計画されました。日本の海上保安庁には、過去のプルトニウム輸送護衛の実績と専用体制（巡視船しきしま、特殊警備隊）がありましたが、今回のMOX燃料は日本の電力会社の貨物でありながら民間の扱いであり、輸送船も英国籍であったことから、関連国間の調整の結果、英国の原子力公社傘下であるUKAEACが海上警備を担当することになりました。輸送に使用された英国籍の船舶には、30mm機関砲などの武装が施され、UKAEACの隊員が乗船して厳重な警戒にあたったのです。

UKAEACは、1999年7月から9月にかけての初回輸送、2001年の二回目の輸送、そして2002年に発生したBNFLによる不正製造MOX燃料を英国へ返送する際の警備も担当しました。その後、2009年および2010年にもMOX燃料輸送が行われ、英国籍の武装輸送船が使用されましたが、これらの時期の警備体制に関する公式な情報は少なく、特に2010年の報道では英国の民間警備会社の関与が示唆されており、UKAEACまたは後身のCNCとの直接的な関連性は明確ではありません。

装備

1999年のMOX燃料輸送時の報道映像や写真から観察されるUKAEAC隊員の装備は、その任務の特殊性を示しています。警乗隊員は黒色のアサルトスーツ、フェイスガード付きヘルメット、ボディアーマーといった防護服を着用していました。個人武装としては、アサルトライフル、ショットガン、拳銃などを携行していました。また、輸送船自体にも強力な武装が施されており、各船に3門の30mm機関砲や、高速での対応を可能とする武装高速艇が搭載されていました。

UKAEACは、英国の原子力関連施設の安全と核物質の確実な管理・輸送という、国家安全保障上極めて重要な役割を担い、その任務は現在、後身である民間核施設保安隊に引き継がれています。

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