茅

茅（かや）

茅（かや）は、広義にはイネ科、あるいはイネ科およびカヤツリグサ科に属する特定の有用な草本植物の総称として用いられます。特に、細長い葉と茎を地上からまっすぐに伸ばす種類が「カヤ」と呼ばれ、その代表的なものとしてチガヤやススキ、スゲなどが挙げられます。時には特定の種であるススキだけを指して茅と呼ぶこともあります。言葉の成り立ちについては、総称としての茅が本来の意味で、ススキを指す用法が派生したとする説と、逆にススキを指す言葉が広がって総称となったとする説があります。

名称と語源

「茅」という名称の語源には複数の説が存在します。一つには、屋根を葺く材料として刈り取ることに由来し、「刈り屋（かりや）」や「上屋（かみや）」が転じたという説があります。また、朝鮮語に起源を持つとする説も唱えられています。

漢字表記

「茅」という漢字は、元来はカヤの一種であるチガヤを意味していました。それが転じて、カヤ全体の総称として使われるようになったとされます。「萱」という漢字も「かや」と読むことがありますが、この字が本来持つ意味は「ワスレグサ」です。「萱」を「かや」と訓じるのは日本独自の読み方（国訓）であり、本来は『和名抄』や『名義抄』といった古文献においては、下部が「亘」ではなく「且」である「萓」と書かれていたものが、誤って「萱」と表記されるようになったという説が有力です。

植物としての特徴

茅の茎は、イネやムギの茎（藁）とは異なり、油分を比較的多く含んでいます。この油分のおかげで、茅の茎は水分を吸収しにくく、高い耐水性を持っています。この特性が、後述する屋根材としての利用において非常に重要となります。

古来からの利用

建築材・材料として

茅の茎が持つ高い耐水性は、建物の屋根を葺く材料として非常に適していました。このため、明治時代以前の日本では、茅は家屋の屋根材として欠かせないものでした。特に屋根を葺くために刈り取られた茅は「刈茅（かるかや）」と呼ばれ、これを使って葺かれた屋根は「茅葺（かやぶき）屋根」として知られています。現代においても、菅笠をはじめとする様々な民芸品や、夏越しの祓えで用いられる「茅の輪（ちのわ）」などが、茅を編んで作られています。

農村における多様な利用

かつての日本の農村部では、茅は生活に密着した様々な用途で活用されていました。牛などの家畜のための飼料として利用されたり、田畑の土壌を豊かにするための肥料として使用されたり、あるいは煮炊きなどの燃料としても重宝されたりと、人々の暮らしを支える多機能な資源でした。

茅場の維持と収穫

茅は日本の農村生活にとって極めて重要な資源であったため、その安定的な確保が不可欠でした。そのため、昔の農村では集落の周辺に特定の土地を「茅場（かやば）」として定めて管理するのが一般的でした。茅場は放置すると次第に樹木が生い茂り、森林化が進んでしまうため、定期的に火を入れて草本植物の生育を促し、そこから茅を収穫していました。この火入れは、日本の里山の景観維持にも深く関わる伝統的な営みです。

季語

俳句においては、茅・萱は秋の季語とされています。

主な種類

「カヤ」が和名に付く植物は多く存在しますが、そのほとんどはイネ科に属します。カヤと呼ばれる代表的なイネ科の種や、その他カヤの例とされる種には以下のようなものがあります。

イネ科
ヨシ (Phragmites australis)
ススキ (Miscanthus sinensis)
スゲ (Carex spp.)
オギ (Miscanthus sacchariflorus)
イタチガヤ (Pogonatherum crinitum)
オカルガヤ (Cymbopogon tortilis var. goeringii)
カモガヤ (Dactylis glomerata) - 帰化植物
キツネガヤ (Bromus pauciflorus)
チガヤ (Imperata cylindrica)
ネズミガヤ (Muhlenbergia japonica)
メカルガヤ (Themeda japonica)
メリケンカルガヤ (Andropogon virginicus) - 帰化植物

カヤツリグサ科
アブラガヤ (Scirpus wichurae)
クロガヤ (Gahnia tristis)

混同されやすい植物

裸子植物でイチイ科に属する木本植物の「カヤ（榧）」や、同じく木本の「イヌカヤ」、またカヤツリグサ科の草本である「カヤツリグサ（蚊帳吊草）」に含まれる「カヤ」は、ここで解説する茅（かや、イネ科などの草本）とは全く異なる植物です。名称が似ているため混同されることがありますが、植物学的な分類や利用法において関連はありません。

関連項目

茅葺
カヤネズミ（萱鼠） - 茅場を主な生息域とするネズミ。
* カヤノヒメ - 日本神話に登場する草の女神。

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