イチイ科

イチイ科（Taxaceae）

イチイ科は、裸子植物に分類される科の一つで、常緑性の針葉樹で構成されています。多くは雌雄異株であり、その形態や生態には独特の特徴が見られます。

形態

イチイ科の植物は、針のような葉を持ち、枝にらせん状に配列しますが、多くの場合、ねじれて左右2列に並んでいるように見えます。雄花序は長さ2～5mmで、晩春に花粉を放出します。雌花序は退化しており、種子鱗片と胚珠がそれぞれ1個ずつで構成されます。種子が成熟すると、鱗片は肉質の仮種皮となり、種子の全部または一部を包み込みます。種子には翼がなく、風によって散布されるのではなく、動物による散布に適応していると考えられています。

生態

マツ科やヒノキ科など、他の多くの針葉樹が風によって種子を散布するのに対し、イチイ科は動物による種子散布に依存していると考えられています。これは、種子を包む仮種皮が肉質で、動物にとって魅力的な餌となるためです。

人間との関わり

木材

イチイ属の木材は、辺材と心材の色がはっきりと分かれ、年輪が緻密で光沢があるという特徴があります。成長が遅いため産出量が少なく、日本では高級木材として扱われます。建材としても使われますが、大径木が手に入りにくく、加工が容易なことから、彫刻の材料としてよく用いられます。岐阜県高山地方の伝統工芸品である一位一刀彫は、イチイの木材を使用しています。また、北海道の先住民であるアイヌは、イチイの木を弓の材料として利用していました。ヨーロッパでも古くから木材として利用されており、イタリアの氷河で見つかった3000年前のミイラ「アイスマン」も、イチイの木を柄に使った斧を持っていました。

食用

カヤ属の種子は、油を搾るための原料となります。イチイ属では、種子を包む赤い仮種皮は食用になりますが、種子や枝葉には有毒成分が含まれています。アガサ・クリスティの推理小説『ポケットにライ麦を』では、イチイの毒が殺人事件に使われる場面が描かれています。イチイの毒はタキシンと呼ばれ、心臓に作用するとされています。

薬用

イチイ属の一部は、抗がん剤の原料としても利用されています。

分類

系統

以前は形態的な特徴から、独立のイチイ綱イチイ目とされていましたが、分子系統解析の結果、マツ綱マツ目（すべての針葉樹を含む）にまとめられるようになりました。イチイ科には6つの属が現存しており、その系統関係は複雑です。かつてはイヌガヤ科が独立した科として扱われることもありましたが、現在ではイチイ科に含めるのが一般的です。

下位分類

イチイ科には、以下の6属が含まれます。

Amentotaxus：アジアに5種が分布する。
Austrotaxus：ニューカレドニアに1種のみ分布する。
イヌガヤ属（Cephalotaxus）：約10種が含まれ、日本にはイヌガヤが分布する。仮種皮が種子を完全に包む。
Pseudotaxus：中国に1種のみ分布する低木。
イチイ属（Taxus）：約30種が含まれ、日本にはイチイが分布する。
カヤ属（Torreya）：約6種が含まれ、日本にはカヤが分布する。仮種皮が種子を完全に包む。

これらの属は、かつては独立の科として扱われたり、複数の説が存在しましたが、現在の系統解析ではイチイ科に内包されることがわかっています。広義のイチイ科として扱う場合、これらの6属すべてを含み、狭義のイチイ科とする場合は、イヌガヤ科などを分離した残りの属を指します。

参考文献

Anderson, E. & Owens, J. N. (2003). Analysing the reproductive biology of Taxus: should it be included in Coniferales? Acta Hort. 615: 233-234.
Chase, M. W. et al. (1993). Phylogenetics of seed plants, an analysis of nucleotide sequences from the plastid gene rbcL. Ann. Missouri Bot. Gard. 80: 528-580.
* Price, R. A. (2003). Generic and familial relationships of the Taxaceae from rbcL and matK sequence comparisons. Acta Hort. 615: 235-237.

外部リンク

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