茅盾

茅盾（マオ・ドゥン）：中国現代文学の巨星

茅盾（1896年7月4日 - 1981年3月27日）は、20世紀の中国文学を代表する小説家、評論家です。本名を沈徳鴻といい、字を雁冰としました。彼は、激動の時代における中国社会の変遷と、そこに生きる人々の姿を鮮やかに描き出し、中国現代文学に多大な足跡を残しました。

生涯

浙江省桐郷県鳥鎮鎮に生まれた茅盾は、幼少期から伝統的な教育を受けました。父は医者であり、維新派の思想に共鳴していたため、茅盾は幼い頃から幅広い知識を習得する機会に恵まれました。しかし、10歳の時に父を亡くし、その後は湖州や嘉興の中学で学びました。北京大学予科に進学しますが、家計の都合で3年で退学し、上海の出版社である商務印書館に入社。

商務印書館では、『四部叢刊』の編集や『学生雑誌』の記事執筆に従事。この時期に、胡適、陳独秀、周作人らによる西欧の個人主義に基づく文学観に触発され、自身も西欧文学の研究に没頭しました。1920年には中国共産党の前身である上海共産主義小組に参加し、初期からの党員として活動しました。

1921年、茅盾は近代文学運動の組織である「文学研究会」の設立に参加し、機関誌『小説月報』の編集を担当。外国文学の紹介や自然主義、写実主義に関する評論を執筆し、文学における新たな潮流を牽引しました。

1920年代後半からは、革命運動に身を投じ、宣伝活動に従事。1927年に武漢国民政府で新聞『国民日報』の学芸欄編集に携わりますが、国共合作の崩壊後、上海に戻り創作活動に専念。中編小説「幻滅」を『小説月報』に発表し、作家としての地位を確立しました。その後、「動揺」「追求」と合わせて「蝕」三部作と呼ばれる作品群を発表し、第一次国共合作崩壊後の混乱を描き出しました。

1928年、茅盾は日本へ渡り、約1年半滞在。評論やエッセイ、長編小説『虹』、短編小説集『野薔薇』などを執筆し、中国神話の研究にも取り組みました。帰国後は中国左翼作家連盟に参加し、行政書記として活動しますが、病により辞職。1932年には、世界恐慌下の中国における民族資本家階級の没落を描いた長編『子夜』を発表し、大きな反響を呼びました。

日中戦争が勃発すると、茅盾は香港へ移り、新聞や雑誌の編集に携わりながら創作活動を続けました。その後、新疆省ウルムチや延安で教鞭をとり、重慶を経て再び香港へ。日本軍の香港侵攻後は桂林へ脱出し、さらに重慶へと移動。戦後は上海に戻り、『文聯』の編集に携わりました。1946年にはソ連を訪問し、各地を旅行しました。

1949年、中華人民共和国が成立すると、茅盾は文化部部長に就任し、1965年までその職を務めました。公人としては沈雁冰の名を用い、文学者としては評論などの活動を行いました。文化大革命の際には一時隠遁生活を送りましたが、1979年には全国文聯の名誉主席、中国作家協会主席に選ばれました。

1981年、北京で逝去。享年85歳。死後、1921年に遡って中国共産党員として認定されました。故郷の桐郷烏鎮には旧居が保存され、1982年には茅盾文学賞が設立されました。

主要作品

小説:
『幻滅』(1927年)
『動揺』(1928年)
『追求』(1928年)
『虹』(1929年)
『子夜』(1932年)
農村三部作（『春蚕』『秋収』『残冬』）(1934-37年)
『腐蝕』(1941年)
『霜葉は二月の花に似て紅なり』(1946年)

評論集:
『社会背景と創作』(1921年)
『夜読偶記』(1956年)

茅盾の作品は、中国社会の現実を鋭く見つめ、そこに生きる人々の苦悩や希望を描き出しています。彼の作品は、中国現代文学の重要な一部として、今もなお多くの読者に読み継がれています。

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