荒山合戦

荒山合戦：能登を揺るがした激戦の全貌

荒山合戦は、天正10年（1582年）6月、前田利家・佐久間盛政率いる織田方連合軍と、温井景隆率いる上杉軍（畠山再興軍）・石動山衆徒連合軍が、能登の支配権を巡って激突した戦いです。本能寺の変による織田信長の死が、この戦いの火種となりました。

戦いの背景：本能寺の変と能登の動揺

天正10年（1582年）6月2日、織田信長が本能寺の変で明智光秀に討たれるという衝撃的な事件が発生します。この混乱に乗じて、石動山衆徒は、かねてより寺領削減を行っていた信長への不満を爆発させ、上杉景勝に援軍を要請。上杉氏に保護されていた畠山氏の遺臣である温井景隆・三宅長盛兄弟が立ち上がり、6月23日夜半には荒山砦に入り、要害を築き始めました。旧武田領でも一揆が頻発し、信長から統治を任されていた滝川一益らが逃走するなど、越後への侵攻の恐れが薄れたことも、上杉景勝が能登奪回に乗り出す要因となりました。

戦いの展開：奇襲、籠城、そして焼き討ち

荒山合戦は、石動山衆徒が温井景隆・三宅長盛兄弟に能登への出兵を依頼し、前田利家に対する反乱を扇動したことから始まりました。『荒山合戦記』によれば、温井・三宅兄弟は遊佐長員と共に上杉景勝の援兵を率いて海路から氷見女良浦に上陸、石動山に登り、般若員快存・大宮坊立玄ら率いる衆徒と合流し、総勢4300の軍勢となりました。そして6月24日、石動山に近い荒山城（桝形山）に砦を築き、前田利家と対峙することになります。

利家は、佐久間盛政や柴田勝家に救援を要請し、自らは3000の兵を率いて石動山に進軍。石動山と荒山の中間にある柴峠に陣を張り、温井・三宅兄弟の軍勢が荒山に向かうところを急襲し、軍勢を分断することに成功します。佐久間盛政は2500の兵を率いて荒山城を攻め、温井・三宅兄弟と遊佐長員は討死。利家は伊賀の倫組に命じて伽藍を放火させ、温井軍を壊滅させました。

温井景隆・三宅長盛兄弟と遊佐長員は、大芝峠で晒し首にされました。翌朝、前田利家は濃霧の中、石動山への攻撃を開始。堂塔・坊舎に火を放ち、不意を突かれた石動山衆徒と上杉勢は壊滅。上杉景勝が派遣した援軍3000は、虻ヶ島あたりから火煙を眺め、越後へ撤退しました。

戦後：石動山の焼失と荒山砦の変遷

荒山合戦は、両軍合わせて1万を超える兵が参加した大規模な戦いでした。石動山の焼き討ちは、比叡山焼き討ちに匹敵する規模であり、天平時代から続く寺院は灰燼と化しました。

荒山砦は、後に佐々成政の砦となりましたが、天正12年（1584年）には前田利家との戦いに敗れ、前田氏の拠点となります。佐々成政が豊臣秀吉に降伏したことで、越中国西部は前田氏の支配下となり、荒山砦は廃城となりました。

荒山合戦が能登に刻んだ傷跡

荒山合戦は、能登の歴史に大きな爪痕を残しました。石動山の焼失は、文化的な損失だけでなく、地域住民の精神的な支柱を失わせる出来事でした。また、畠山氏の再興をかけた温井・三宅兄弟の戦いは、多くの犠牲者を出し、能登の社会に深い傷跡を残しました。荒山合戦は、戦国時代の激しい勢力争いの中で、翻弄される人々の姿を今に伝える出来事として、語り継がれています。

参考文献
『温故足徴』
『荒山合戦記』
* 『太閤記』

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