荒野の決闘

荒野の決闘 (My Darling Clementine)

ジョン・フォード監督が手掛けた1946年公開の西部劇映画『荒野の決闘』は、西部劇の古典として、今もなお多くの映画ファンを魅了し続けています。監督自身の最高傑作の一つとされ、同じくフォード監督の『駅馬車』と並び称されることもあります。『駅馬車』がダイナミックな描写で観客を魅せるのに対し、『荒野の決闘』は静かで叙情的な演出が特徴です。

ストーリー

物語は、ワイアット・アープとその兄弟たちが牛追いとして旅をする中で、末弟のジェームズが殺害され、牛を奪われるという悲劇から始まります。ワイアットは犯人を捜すため、保安官として無法の街トゥームストンに留まることを決意。そこで、かつては腕利きの外科医でありながら、今は賭博師として身をやつしているドク・ホリデイと出会います。互いに牽制しあいながらも、次第に友情を育んでいく二人。

そんな中、ワイアットは東部からやってきたクレメンタインという女性と出会います。彼女はかつての恋人、ドク・ホリデイを追ってトゥームストンにやってきたのでした。クレメンタインの登場は、ワイアットの心に淡い恋心を芽生えさせ、同時にドクの過去を浮き彫りにしていきます。そして、アープ兄弟と、街を牛耳るクラントン一家との対立は激化の一途をたどり、やがて有名な「OK牧場の決闘」へと繋がっていくのです。

特徴

この映画は、実在のガンマン、ワイアット・アープの伝記を基にしていますが、史実からの脚色も多く含まれています。しかし、それによって、単なるアクション映画に留まらず、人間ドラマとしての深みを増しています。無法の街が徐々に平和を取り戻していく過程、クレメンタインのひたむきな想い、ドク・ホリデイの複雑な心情、そしてワイアット・アープの正義感と葛藤が、西部開拓時代の風景の中で鮮やかに描き出されています。

特筆すべきは、その映像美です。ジョン・フォードは、ユタ州モニュメントバレーにトゥームストンの町並みを再現した巨大なセットを建設。広大な荒野を背景に、人物を配置することで、西部劇独特の空気感を創り出しています。また、BGMを極力排し、自然の音を活かすことで、画面のリアリティを高めることに成功しています。

制作背景

『荒野の決闘』は、ジョン・フォード監督にとって、第二次世界大戦後の最初の作品となりました。戦時中に多くの仲間を失ったフォードは、本作に「喪失と再生」というテーマを込めました。弟を殺されたワイアット、恋人を救えなかったドク、息子たちを失ったクラントン。それぞれの喪失感を描く一方で、教会建設に沸く人々の姿やダンスパーティの賑わいを丹念に描くことで、多くの犠牲の末に得られた平和の尊さを表現しています。

非公開試写版

劇場公開版とは別に、ジョン・フォードが最初に編集した「非公開試写版」が存在します。このバージョンは、街の治安回復やワイアットと住民たちの交流に重点を置いた内容だったと言われています。しかし、製作総指揮のダリル・F・ザナックは、フォードの編集に不満を抱き、自ら再編集に着手。クラントン一家との対決を強調した、より活劇色の強い作品に仕上げました。現在では、この非公開試写版の一部がDVDに収録されており、ジョン・フォードのオリジナル版の雰囲気を垣間見ることができます。

評価と影響

『荒野の決闘』は、公開当時から高い評価を受け、現在に至るまで、多くの映画監督や評論家から絶賛されています。黒澤明監督は「映画のお手本のような作品」と評し、宮崎駿監督も本作を高く評価しています。また、深作欣二監督も、自身のオールタイムベストとして本作を挙げています。

西部劇というジャンルを超えて、映画史に残る傑作として、『荒野の決闘』はこれからも多くの人々に愛され続けることでしょう。

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