荒野の誘惑

荒野の誘惑

荒野の誘惑（あらののゆうわく）とは、新約聖書に記録されたイエス・キリストが悪魔から試練を受けた出来事を指します。このエピソードはキリスト教において重要な教義を形成しており、多くの芸術作品にも影響を与えてきました。特に、イエスが洗礼者ヨハネから洗礼を受けた後に、霊に導かれて荒野に行き、40日間もの間断食をし、悪魔の誘惑に直面する場面が描かれています。この出来事は、マルコ、マタイ、ルカの各福音書に記されており、それぞれの文脈での解釈が存在します。

悪魔の試み

イエスが試みを受けた場所については明確な記載はありませんが、伝承によれば、ヨルダン川西岸のエリコ近郊の山がその舞台とされています。悪魔による試みという言葉は、新共同訳やいくつかの他の訳でも「誘惑」とされています。悪魔は「中傷する者」の意味を持つ『diabolos』という言葉で表現され、イエスに対する試みは神の意志の一部であると理解されています。ジャン・カルヴァンによると、イエスは全人類の代表としてこの試練を受けており、ヘブライ人への手紙では、イエスは罪のない存在でありながらも、人々の弱さを理解するために試練を通過したとされています。

連なるイスラエルの民もまた、出エジプトの40年において神の信頼を試されていました。彼らの不信の中で警告が発され、旧約聖書の歴史を思い巡らすことが求められました。すなわち、現代の教会も同様の課題に直面しているのです。それでもなお、神の安息に入る約束は存続していると強調されています。

各試みの詳細

第一の試み

イエスは、悪魔による誘惑に対して旧約聖書の申命記8章3節を引用し反論しました。特に、イエスが選んだ引用部分は出エジプト記における神の恵みと信頼を示しています。悪魔が肉体の欲求を煽っても、イエスは神の言葉に従うことを選びました。

第二の試み

この誘惑では、悪魔がすべての国々を与える代わりにひざまずいて拝むことを促します。これは明らかに偶像崇拝を示唆しており、聖書全体における神への忠誠を問われる場面です。イエスはこれに強く反発します。

第三の試み

悪魔は詩篇91篇を引用し、イエスに主を試みるよう促しますが、イエスは再び申命記を引き、主を試みることがいかに愚かであるかを教えます。ここでイエスが示した信仰のあり方は、試練を受けながらも神への完全な信頼があることを示しています。

メシアへの期待と批評

当時のラビたちはメシアが神殿の屋根に立つことを期待していましたが、批評家たちの中にはこの出来事を寓話として解釈する者もいます。特にトマス・ホッブズやジョン・ロックのような思想家たちは、イエスの内面的な葛藤を描く物語展開を重要視しました。

美術における表現

このエピソードは、ドゥッチョやボッティチェリなど多くの芸術作品に取り入れられています。近代ロシアの画家イワン・クラムスコイによる『曠野のイイスス・ハリストス』は、その一例として評価されています。

荒野の誘惑は、信仰と人間の弱さ、そして神への信頼について多くの教訓を私たちに与えています。

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