荷担ぎの薬剤師

荷担ぎの薬剤師：中央ヨーロッパのハーブ治療薬行商人の歴史

16世紀から20世紀初頭にかけて、中央ヨーロッパ各地で独特の薬剤師たちが活躍していました。彼らは「荷担ぎの薬剤師」(Buckelapotheker)と呼ばれ、背中に背負子（人間の背の高さの背負籠）を背負って、精油などのハーブ治療薬を販売する行商人でした。その名前の由来は、まさにこの背負子からきています。

荷担ぎの薬剤師たちは、旅の行商人集団の一員として、粘土の水差し、ガラス瓶、チップボードの箱に詰められた治療薬を、ヨーロッパ各地の顧客へと届けていました。徒歩で何週間もかけて移動し、家族単位で一定の販売エリアを担当していたと考えられています。

当初は木製の背負子が用いられていましたが、オーバーヴァイスバッハの鞍職人が、より持ち運びしやすい革製の背嚢(Ranzen)を開発しました。この革製の背嚢は、地域の方言で「ラーンツ」(Raanz)と呼ばれ、オーバーヴァイスバッハ周辺地域を指す言葉にもなっています。

彼らの活動拠点の一つは、チューリンゲンのスレート山脈（約300平方キロメートル）でした。オーバーヴァイスバッハ、ディースバッハ、ミューゼルバッハ＝シュヴァルツミューレ、グロースブライテンバッハ、シュミーデフェルト、ケーニヒゼーといった町々が、荷担ぎの薬剤師にとって重要な拠点となっていました。これらの地域で採取・加工された精油が、彼らの販売する商品の重要な一部を構成していました。

荷担ぎの薬剤師は、現代の製薬業界や蒸留酒業界の先駆けと言える存在でした。彼らは、ハーブ治療薬の販売を通じて、地域医療に貢献した重要な役割を果たしていたのです。

しかし、第二次世界大戦後の東西ドイツ分裂により、東ドイツでは販売ルートの維持が困難となり、荷担ぎの薬剤師のギルドは衰退していきました。多くはVEB Pharmazeutisch-Chemische Fabrik Meuselbach（現在はKrewel Meuselbach GmbH）に雇用されることになりました。

現在でも、オーバーヴァイスバッハ（フリードリッヒ・フレーベル博物館）、シュミーデフェルト、ルドルシュタット、クラインテッタウなどの博物館では、荷担ぎの薬剤師の歴史と伝統を紹介する展示が行われています。これらの展示は、彼らの活動を後世に伝える貴重な資料となっています。

荷担ぎの薬剤師は、単なる行商人ではありませんでした。彼らは、ハーブ療法の知識と技術を持ち、地域住民の健康に貢献した重要な存在だったのです。彼らの歴史は、中央ヨーロッパの医療文化の一端を垣間見ることができる貴重なものです。彼らの活動は、現代の製薬業界や健康産業にも繋がる重要な歴史的遺産と言えるでしょう。

参考文献

Elvira Grudzielski: Mein Thüringer Kräuterland. Arfmann, Suhl 1997, ISBN 3-9804573-4-6
Otto Ludwig: Im Thüringer Kräutergarten. Von Heilkräutern, Hexen und Buckelapothekern. Rudolstadt 1982, ISBN 3-7352-0037-0
Anja Werlich, Rainer Schlundt (Hrsg.): Buckelapotheker in Thüringen. Zeitzeugen berichten. Hain-Verlag, Rudolstadt 1995, ISBN 3-930215-16-0

関連項目

行商
物売り
富山の売薬

外部リンク

* Naturregion Biosphäre im Thüringer Wald - Regionalverbund Thüringer Wald e.V.

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