物売り

物売り（ものうり）とは

物売りとは、路上を移動しながら、独特の売り声や鳴り物で客を呼び込み、食品や物品の販売、修理、古物や廃品の買取・交換などを行う者を指します。「引き売り」とも呼ばれ、「物売りの声」や「引き売りの声」という言葉は広く知られています。屋台や行商、街商と共通する部分もありますが、行商は固定客への訪問販売が主であり、街商は市や縁日などで一定の場所に留まって商売を行う点が異なります。また、物売りは必ずしも屋台を用いるとは限りません。

歴史

物売りは江戸時代に隆盛を迎え、「棒手振（ぼてふり）」と呼ばれていました。食品から日用品まで、生活に必要なあらゆるものが売られており、幕府の許可を得た者だけが営業できました。これは、生活困窮者や弱者の就業を支援する幕府の政策の一環でもありました。違反者には厳しい処罰が科せられました。

一部の物売りは、「物売り声」という大道芸を披露しながら商売をしていました。現代では、物売り声だけが大道芸として残っています。

季節のものを販売することも多く、市や祭りの門前町などでは場所代や既得権が必要でしたが、棒手振は歩き売りという形態をとることで、これらの制約を回避していました。夜鳴き蕎麦や鮨屋などが代表的です。当時は、大八車（リヤカー）ではなく、天秤棒を担いで商品や道具を運んでいました。

江戸時代には、調理済みの天ぷらや鰻の蒲焼などを木箱に入れて売り歩く物売りもいました。近年では、自転車やリヤカーを改造し、煮炊きができる設備を備えた物売りも現れました。昭和初期から昭和40年代にかけて、おでん売りや菓子パン売りなどが一般的でしたが、豆腐売りや納豆売り、金魚売りなど、江戸時代から続く物売りは次第に姿を消していきました。

しかし、現代では自動車に設備を搭載し、外食産業や商店が少ない地域で食事や弁当を販売する形態も見られます。また、高齢化社会に対応するため、地域振興や福祉を目的として、昔ながらのスタイルで豆腐などの大豆食品を販売する企業も存在します。

物売りの種類と売り声・鳴り物

食事

鮨屋: 江戸前寿司は物売りや屋台から始まったため、現在でも立ち食い鮨屋が東京を中心に残っています。
夜鳴き蕎麦: 呼子と呼ばれる笛を吹きながら商売をしていました。宵に笛を吹くことから「夜鳴き蕎麦」と呼ばれました。現在では、日本蕎麦から中華蕎麦（ラーメン）に変わり、笛もチャルメラに変わっています。
鰻売り: 当初は生きた鰻をその場で捌いていましたが、後に蒲焼にしたものや、その場で調理するものも現れました。割り箸は鰻屋が考案したとされています。
賄い屋: 江戸時代は独身男性が多く、下級武士向けの弁当屋として発展しました。
おでん売り: 昭和40年代まで各地で見られ、夕食のおかずや子供のおやつとして親しまれていました。

菓子

飴売り: 多種多様な飴売りが存在し、くじ形式や余興などで客を楽しませていました。
鼈甲飴: 溶かした飴を型に流し込み、様々な形を作って売っていました。
飴細工: 鋏や指先を使って飴を練り、立体的な造形物を作って売っていました。
揚げ団子売り: 小麦粉を甘く味付けして揚げ、子供向けに販売していました。
菓子パン売り: ベルを鳴らしながら呼び込みをし、リヤカーに並べた菓子パンを売っていました。
焼芋屋: 「やきいもーやきいもー栗よりうまい十三里ー」という売り声で親しまれていました。
糖粽売: 糖粽（あめちまき）を販売していました。
地黄煎売: 地黄煎（じおうせん）を販売していました。

食材

蜆浅蜊売り: 「しじみーあさりー」などの売り声で、蜆や浅蜊を売っていました。
鰯売り: 「いわしこーいわしこー」という売り声で、新鮮な鰯を販売していました。
納豆売り: 「なっとー、なっとなっとうー、なっと」という売り声で、納豆を売っていました。江戸時代から続くポピュラーな存在でした。
豆腐売り: ラッパを使い、「とーふー」と聞こえるように吹いていました。
青果など: 季節ごとに蜜柑、西瓜、大根などの野菜や果物を販売していました。
菜売: 菜（葉菜類）を販売していました。
鳥売: 雁や猿、兎などを食用肉として販売していました。
七味唐辛子: 独特の売り声で七味唐辛子を売っていました。
水売り: 「ひやみずやぁひやみずやぁ」という売り声で、飲料水を販売していました。

生活用品

定斎屋: 漢方薬を天秤棒で担ぎ、独特の音を立てながら売っていました。
羅宇屋: 煙管の羅宇のヤニ取りや交換をしていました。
竿竹売: 「さおやーさおだけー」という売り声で、竿竹を売っていました。
鋳掛屋: 金属製の鍋や釜の修理販売をしていました。
金魚売: 「きんぎょーえー、きんぎょー」という売り声で、金魚と金魚鉢を売っていました。
風鈴売: 風鈴の音色で客を呼び込んでいました。
材木売: 材木を販売していました。
竹売: 篠竹（メダケ）を販売していました。

買取

古紙、古着、金物、番傘、屎尿、樽、桶、糠など様々なものを買い取っていました。江戸時代はリサイクル社会であったと考えられています。

* 落ち買い: 「おちゃない　おちゃない」という呼び込みの声で抜け落ちた髪の毛を買い取っていました。

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