菅野直

菅野直：日本海軍の撃墜王、そして謎に包まれた最期

菅野直(かんの なおし, 1921年10月13日 - 1945年8月1日)は、太平洋戦争における日本海軍の撃墜王として知られるパイロットです。海兵70期卒業後、数々の戦闘で活躍し、戦死認定により海軍中佐に昇進しました。その生涯は、優れた戦闘能力と破天荒な性格、そして謎に包まれた最期によって彩られています。

少年時代：優等生とガキ大将の二面性

1921年、北朝鮮平壌近郊で警察署長だった父の赴任先で生まれ、宮城県で育ちました。家庭では兄姉を敬愛する従順な少年でしたが、外では喧嘩っ早く、正義感の強いガキ大将として知られていました。一方で、勉学にも励み、常にトップクラスの成績を収めるなど、相反する二面性を持っていました。文学にも造詣が深く、特に石川啄木の作品に傾倒し、短歌を詠むなど、繊細な一面も持ち合わせていました。中学卒業後、経済的な理由から軍人になる道を選びました。

海軍飛行学生時代：類まれな才能と破天荒な行動

陸軍士官学校受験は身長不足で不合格でしたが、海軍兵学校には合格。1938年12月に入校し、1941年11月に卒業しました。その後、飛行学生となり、卓越した操縦技術と射撃技術を身に付けました。模擬空戦では教官を出し抜くほどの腕前を示し、「菅野デストロイヤー」という異名を持つほど、数々の飛行機を墜落させるなど、その破天荒な行動で周囲を驚かせました。しかし、その裏には並外れた努力と才能がありました。

戦闘での活躍：独自の戦法と「イエローファイター」

1944年2月、第343海軍航空隊「隼」部隊分隊長として南洋に進出し、大型爆撃機を迎撃する任務に就きました。そこで彼は、大型爆撃機に対抗するための独自の戦法を考案。敵機の死角となる上方から攻撃するこの戦法は、多くの敵機を撃墜することに成功し、その機体の黄色いストライプ模様から「イエローファイター」と呼ばれ、敵から恐れられました。その後、第201海軍航空隊に所属し、ヤップ島での戦闘では、零戦でB-24爆撃機を撃墜するなど数々の戦果を挙げました。

「剣」部隊での活躍：源田実司令官との信頼関係

1944年12月、第343海軍航空隊（通称「剣」部隊）戦闘301飛行隊隊長に着任。源田実司令官の下、その勇猛果敢な戦闘ぶりと優れた戦術眼で部隊を率いました。隊員たちからは慕われ、一方で規律を重んじる面もあった司令官に対しても、時に反抗するなど、独特の存在感を示しました。しかし、その行動の裏には、部下への深い愛情と、戦争への強い思いがありました。

最後の戦闘と謎の最期

1945年8月1日、九州沖でB-24爆撃機迎撃任務中に消息不明となり、戦死と認定されました。総撃墜数は72機とされていますが、その最期の状況は不明な点が多く残されています。アメリカの戦闘記録との食い違いや、様々な証言から、彼がどのような状況で命を落としたのか、未だに謎に包まれています。

菅野直が残したもの

菅野直は、その短い生涯の間に、卓越した戦闘能力と独自の戦術、そして強い個性で周囲に大きな影響を与えました。彼の生涯は、太平洋戦争の激しさと悲しみ、そして人間の複雑さを改めて私たちに問いかけるものです。彼の遺品である財布は、靖国神社遊就館に展示されています。また、残された日記からは、戦争だけでなく文学や哲学への関心、そして故郷への思いなど、多様な一面を知ることができます。彼の生き様は、今もなお語り継がれています。

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