菊地秀行

菊地秀行：多様なジャンルを縦横無尽に駆け巡る作家

菊地秀行（きくちひでゆき）は、1949年千葉県銚子市生まれの小説家である。ホラー、SF、ファンタジー、伝奇小説など、実に多様なジャンルで作品を発表し続けている、日本を代表する作家の一人と言えるだろう。彼の作品群は、その独特の世界観と、時に過激なバイオレンス描写で知られる。

幼少期の体験と作家への道

幼少期より怪奇映画や、かの有名なホラー作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの幻想小説に深く親しんだ菊地。特にラヴクラフトの創作世界に織り込まれた「クトゥルー神話」は、彼の作品に多大な影響を与え、後の創作活動の礎となった。

銚子市立銚子高等学校、青山学院大学法学部卒業という経歴を持つ彼は、大学時代には推理小説研究会の会長を務め、作家の山村正夫を顧問に持ち、作家仲間の竹河聖と交流を深めた。さらに、早稲田大学の学生たちが結成した「幻想文学会」にも参加するなど、若き日から創作活動に没頭していたことがうかがえる。

興味深いことに、菊地は「水田冬樹彦」「三枝藤夫」といったペンネームで、ロビン・ヤングの『オリンピック村の誘惑』など計4冊のポルノ小説の翻訳も手掛けている。作家としての多様な側面を示すエピソードと言えるだろう。

フリーライターを経て、1982年、『魔界都市〈新宿〉』（朝日ソノラマ）で作家デビュー。1985年には『魔界行』（祥伝社）を発表、これがベストセラーとなり、夢枕獏とともに伝奇小説界の旗手として注目を集めることとなった。

多彩なシリーズと旺盛な創作活動

その後、菊地は『魔界都市』シリーズや『吸血鬼ハンターD』シリーズ、『エイリアン』シリーズなど、複数の長編シリーズを執筆。文庫版を含めると、ほぼ毎月数冊という驚異的なペースで作品を世に送り出し続けている。その創作活動の旺盛さは、まさに驚異的としか言いようがない。

映画への造詣と独特の視点

菊地は古今東西のホラー映画に造詣が深く、小説活動の傍ら、ホラー映画に関する解説書も多数執筆している。80年代のホラー映画ブームにおいては、朝日ソノラマの雑誌『宇宙船』で「X君」のペンネームを使い、当時、輸入ビデオでしか見られなかった多くのB級ホラー、スプラッター映画を紹介。ブームの火付け役の一人として貢献した。

その独特の視点から、邦画の低迷について「プロデューサーが低脳で脚本家が白痴だから」と発言し、関係者を激怒させたという逸話も残っている。

作品に反映される多彩な趣味と経験

菊地の作品には、エロスとバイオレンスの描写が多く見られる。これはジュブナイル作品においても例外ではなく、初期からその作風が注目を集めていた。

菊地は、趣味人の多い作家業界の中でも、類まれな武器・銃器マニアとして知られている。特にガンマニアぶりは有名で、『エイリアン』シリーズでは、主人公の八頭大にCz75やG11といったマイナーな銃を愛用させ、作品中にその知識を存分に見せている。

また、少林寺拳法の経験者（師は伊藤昇）という経歴も持ち、作中では主人公が少林寺拳法を使うシーンが多く見られる。こうした個人的な嗜好や経験が、作品世界に深みとリアリティを与えている。

代表作と主な作品リスト

彼の代表作として挙げられるのは、前述の『魔界都市』シリーズ、『吸血鬼ハンターD』シリーズ、『エイリアン』シリーズなど、多岐にわたる。以下に、代表的なシリーズと主な作品をリストする。詳細は各シリーズごとに膨大な作品があるので、ここでは割愛する。

魔界都市シリーズ:『魔界都市〈新宿〉』、『魔界都市ブルース』、『魔界都市ノワール』など
エイリアンシリーズ:『エイリアン秘宝街』、『エイリアン魔獣境』、『エイリアン黙示録』など
吸血鬼ハンターDシリーズ
妖魔シリーズ
トレジャー・ハンター八頭大シリーズ
妖戦地帯シリーズ
転校生シリーズ
その他多数のシリーズ作品

多岐にわたる活動

小説執筆以外にも、ホラー映画解説、怪談漫画アンソロジーの刊行、さらには翻訳活動など、多方面で活躍している。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員という肩書きも、彼の幅広い活動を物語っている。

菊地秀行は、その旺盛な創作活動と、独特の世界観で、多くの読者を魅了し続けている稀有な作家と言えるだろう。彼の作品は、これからも多くの人々に読み継がれていくに違いない。

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