菊池昌弘

菊池昌弘：病理学者として、教育者として、そして実業家として

菊池昌弘（きくち まさひろ、1934年3月21日-2012年4月28日）は、日本の病理学者であり、世界的に知られる「菊池病」の発見者です。福岡県門司市（現在の北九州市門司区）に生まれ、名家である井筒屋社長・菊池安右ヱ門の二男として裕福な環境で育ちました。福岡県立修猷館高等学校卒業後、九州大学医学部に進学し、卒業後は橋本美智夫教授の指導の下、病理学教室で血液疾患の研究に没頭しました。

その後、1966年にはドイツのキール大学に留学。カール・レンネルト教授に師事し、脾臓の病理学的研究で顕著な成果を収めました。帰国後は九州大学第二病理学講座で助教授を務め、リンパ節病変を中心とした血液病理の研究を続けました。1973年には福岡大学医学部病理学教授に就任、その後、医学部長、病院院長、副学長と要職を歴任し、教育・研究機関に大きく貢献しました。

菊池氏の最も重要な業績は、1970年に九州大学で発見した「菊池病」です。悪性リンパ腫と紛らわしい特殊なリンパ節病変を初めて報告し、1972年に日本血液学会誌に発表しました。この発見をさらに確証するため、単身ドイツに渡り、師であるレンネルト教授と共に膨大なリンパ節標本を再検討。ヨーロッパでも同様の疾患が存在することを確認しました。この研究は、レンネルト教授から高く評価され、1982年のドイツ病理学会で「Kikuchi's lymphadenitis」として発表されたことで、世界的に「菊池病」(正式名称：組織球性壊死性リンパ節炎)として認知されるようになりました。

菊池氏は、医学界への貢献のみならず、教育者としても優れた手腕を発揮しました。福岡大学では数多くの優秀な医師を育成し、後進の指導にも尽力しました。さらに、2007年に福岡大学を退官後も、村上記念病院、村上華林堂病院の理事長に就任し、医療現場での指導を続けました。

その一方で、実業家としての顔も持ち合わせていました。先祖が創業した中津市の老舗醤油会社「むろや醤油株式会社」の経営再建にも取り組み、見事な成功を収めました。医学研究、教育、そして実業界と、多岐にわたる分野で活躍した菊池氏は、その多才さ、そして社会貢献への情熱で、多くの人々から尊敬を集めていました。2012年4月28日、悪性リンパ腫に肺炎を併発し、78歳で永眠しました。

彼の功績は、医学研究への多大な貢献にとどまりません。教育者として、そして実業家としても成功を収めたその人生は、後世に大きな影響を与え続けるでしょう。彼の業績を称え、その人生を振り返ることは、未来の医療の発展、そして社会貢献への道を照らす灯となるはずです。

主要論文

菊池昌弘、「特異な組織像を呈するリンパ節炎について」 日内学誌 1972, 35, 379―80.
菊池昌弘、岩崎宏、三井徹次、[組織球性壊死性リンパ節炎]の臨床病理学的研究 日本網内系学会会誌 20巻 (1980) Supplement号 p.11-22
菊池昌弘、菊池病 日本内科学会雑誌 91 巻 (2002) 7 号 p. 2057-2058
菊池昌弘、「悪性リンパ腫病理診断の変遷とWHO分類改訂 (特集 WHO分類改訂と悪性リンパ腫の病理診断)」 血液・腫瘍科 58(5), 517-523, 2009-05

参考文献

* 泉孝英編 『日本近現代医学人名事典別冊』 医学書院、2021年

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