萬鉄五郎

萬鉄五郎：日本の洋画界に新風を吹き込んだ画家

萬鉄五郎（よろず てつごろう、1885年11月17日 - 1927年5月1日）は、大正から昭和初期にかけて活躍した、日本の洋画界に多大なる影響を与えた画家です。岩手県花巻市（旧和賀郡東和町）の商家の出身で、幼少期から絵画への才能を示していました。1901年には、大下藤次郎の著書『水彩画之栞』に感銘を受け、自ら作品を送り批評を求めるなど、積極的に研鑽を積んでいました。

1903年に上京し、早稲田中学に通いながら白馬会第二研究所で素描を学びました。その後、1906年には臨済宗円覚寺派の宗活禅師に従って渡米。サンフランシスコの美術学校で本格的に学ぶことを目指しましたが、同年発生したサンフランシスコ地震により計画は頓挫し、数ヶ月で帰国しました。

帰国後、1907年に東京美術学校西洋画科に入学。1912年に卒業、卒業制作には《裸体美人》を提出しました。在学中から、当時日本に紹介され始めたポスト印象派やフォーヴィスムに強い関心を示し、フィンセント・ファン・ゴッホやアンリ・マティスの影響を強く受けていました。黒田清輝らのアカデミックな画風が主流であった日本の洋画界において、萬鉄五郎はフォーヴィスムをいち早く取り入れ、革新的な作品を発表しました。この功績は、日本の近代洋画史において特筆すべきものと言えるでしょう。

卒業後、1911年には広島新太郎らとアブサント会を結成。翌1912年には、岸田劉生や高村光太郎らが参加したフュウザン会に参加し、積極的に作品を発表しました。初期の彼の作品には、フォーヴィスムの特徴である鮮やかな色彩と大胆な筆触が顕著に表れています。しかし、1914年から1916年にかけて郷里である土沢に帰郷した期間には、フォーヴィスム的な色彩は影を潜め、茶褐色を基調とした作品を多く制作しました。この転換期においても、彼の探求心と表現力の深さが伺えます。

1917年には二科展にキュビスムの影響が見られる《もたれて立つ人》を出品。その後、病気療養のため神奈川県茅ヶ崎市に移り住み、鳥海青児や原精一らと交流を深めました。1922年には春陽会の設立に参加し、同年には鉄人会を結成して南画の研究にも取り組みました。晩年には、日本画の制作にも意欲的に取り組んでいます。多様な画法への挑戦は、彼の芸術に対する飽くなき探求心を物語っています。

1927年、結核のため31歳の若さで神奈川県で亡くなりました。彼の作品は、現在も東京国立近代美術館をはじめとする多くの美術館に収蔵され、高い評価を得ています。1984年には、出身地である花巻市に「萬鉄五郎記念美術館」が開館し、その生涯と作品を後世に伝える役割を担っています。代表作には、《裸体美人》、《もたれて立つ人》、《赤い目の自画像》、《雲のある自画像》、《落曙・荷車ひきのいる風景》、《目のない自画像》、《猿ヶ石川当楽図》などがあります。これらの作品は、彼の芸術的才能と、時代の変遷の中で揺れ動いた内面を映し出しています。萬鉄五郎は、日本の近代洋画史に燦然と輝く、重要な存在と言えるでしょう。

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