葦の浮船

『葦の浮船』

松本清張の長編小説『葦の浮船』は、1966年の『婦人倶楽部』に連載された後、1967年に単行本として刊行されました。この作品は、日本の学校や学問の現場に潜む人間関係の複雑さや道徳的葛藤を描いており、特に学界での権力争いや個々の倫理観が鍵となる内容です。

あらすじ

物語の舞台は東京にあるR大学。助教授の小関久雄は、金沢市で開催された学会の後、同僚の折戸二郎から不倫のアリバイを頼まれます。折戸は、山中温泉で彼が憧れる笠原幸子を誘惑する計画を持ちつつ、小関は古文書の研究を目的に飛騨高山へ旅立つことになります。

高山で小関は、歴史に興味を持つ若い女性近村達子と出会います。彼女との再会を経て、微妙な感情が芽生える小関ですが、東京に戻った折戸は幸子との密会に悩むようになります。すると、折戸は学内の昇進を匂わせながらも、幸子との関係を終わらせることを悩むようになり、同時に小関にも見合いを勧めるのです。

見合いの相手として達子の名前を耳にした小関は、理由は分からないもののその話を断る決心をします。しかし、折戸が達子に目をつけ、さらに小関の周囲に不穏な空気が漂います。折戸は自らの欲望を満たそうと達子を高山へ誘いますが、幸子との関係の露見を恐れ、思惑が展開していきます。

主な登場人物

• - 折戸二郎: R大学の助教授で、古代史の研究において業績を上げている。社交的でありながらも、私生活での問題を抱える。
• - 小関久雄: 折戸の同僚で中世史を専門とするが、あまり評価されていない。人との関わりを苦手と感じるタイプ。
• - 近村達子: 高山の古寺で小関と出会った若い女性で、歴史への興味が強い。
• - 笠原幸子: 折戸が担当する講習生で、彼に憧れを抱く主婦。
• - 折戸睦子: 折戸の妻であり、夫の不倫に悩む。
• - 笠原敏夫: 幸子の夫で、化学繊維会社で働く技師。
• - 西脇俊雄: R大学の講師で、折戸と小関の先輩。学部長から冷遇されている。

テレビドラマ化

『葦の浮船』は1971年と1984年にテレビドラマとしても制作されました。1971年版はNETテレビ系列の「ナショナルゴールデン劇場」で放映され、原作に忠実な形で描かれました。主要キャストには佐久間良子、北村和夫、坂口良子などが起用されました。

1984年版は、テレビ朝日の開局25周年スペシャルとして制作され、キャストには渡瀬恒彦や坂口良子が参加。視聴率も好調でした。2つの映像化は、異なる解釈で物語を視聴者に届けることに成功しています。

結論

この物語は個々のキャラクターの葛藤を通して、倫理や人間性について深く考察しています。登場人物たちの行動が織りなすドラマは、読者や視聴者に強い印象を与えることでしょう。警察の職務質問や不倫のもつれなど、展開するストーリーは緊迫感を生み出し、最後まで目を離せない作品です。

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