葬送の歌 (ストラヴィンスキー)

イーゴリ・ストラヴィンスキーの『葬送の歌』

『葬送の歌』（露: Погребальная песня）は、1908年にイーゴリ・ストラヴィンスキーが作曲した管弦楽曲で、師・ニコライ・リムスキー＝コルサコフの追悼を目的としています。この楽曲は長い間行方不明でしたが、2015年に再発見されました。ここでは、その作曲の経緯や再発見のプロセスについて詳しく説明します。

作曲の背景

リムスキー＝コルサコフは1908年6月8日に逝去し、ストラヴィンスキーはその葬儀に出席しました。その後、彼はウスティルーフでリムスキーへの追悼として音楽を作曲し始めました。曲の完成を夫人に知らせる手紙は、7月28日の日付で、短期間での作成だったことが伺えます。

当時、アレクサンドル・ジロティはグラズノフに追悼曲を依頼していましたが、期限に間に合わなかったため、代わりにマクシミリアン・シテインベルクに依頼し、10月に演奏されました。ストラヴィンスキーの『葬送の歌』は、翌1909年に初演され、同演奏会ではグラズノフの作品も披露されました。ただし、ストラヴィンスキーの曲は出版されず、その後行方不明となりました。

行方不明の経緯

第一次世界大戦が勃発した1914年以降、ストラヴィンスキーはロシアに戻らず、『葬送の歌』の楽譜も失われてしまいました。彼の自伝によると、作曲当時の音楽を忘れてしまったものの、構想の根底には独奏楽器が旋律を携えて師の墓を巡るというアイディアがあったとしています。また、彼はこの曲が自分の最高の作品であるとも語っており、そのパート譜はサンクトペテルブルクの音楽院の図書館に保存されているはずだとも述べています。

再発見の奇跡

ストラヴィンスキーの死後も、特に行方不明となっていた『葬送の歌』は、他の数作品が再発見される中で唯一残されていました。サンクトペテルブルク音楽院の音楽学者ナタリヤ・ブラギンスカヤは、楽譜の捜索を続けていましたが、なかなか見つけ出すことができませんでした。しかし、2014年秋に音楽院の大規模改修工事の際、書庫の整理によって『葬送の歌』のパート譜が発見されました。この発見は2015年春のことであり、ブラギンスカヤによる調査の後、同年9月に国際音楽学会で発表されたのです。

2017年には、発見された楽譜が出版社を通じて出版されました。再演は初演から108年後の2016年12月2日に行われ、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮のマリインスキー劇場管弦楽団によって演奏されました。その後、世界各地での演奏が続き、日本でも2017年に初めて演奏されました。

音楽的特徴

『葬送の歌』は、フルート3、オーボエ2、クラリネット3、ファゴット3などの編成で、演奏時間は約12分です。曲は6/4拍子で、Largo assaiという速度記号が付けられています。全106小節からなり、リムスキー＝コルサコフやワーグナーの影響を感じさせながらも、ストラヴィンスキーの独自性が色濃く表れている作品です。

トレモロ音の中で低音が旋律を奏で、葬送の鐘を模したフレーズが主旋律と絡み合いながら進行していきます。これにより、楽曲全体にわたって感情的な深みが生まれています。出所不明の楽譜を再び音楽界に呼び寄せたストラヴィンスキーの『葬送の歌』は、彼の作曲技法の進化を示す貴重な証でもあります。

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