蒼いくちづけ

蒼いくちづけ：宝塚歌劇団の吸血鬼ロマンス

1987年、宝塚歌劇団星組によって初演されたミュージカル『蒼いくちづけ』。正式タイトルは『「蒼いくちづけ」－ドラキュラ伯爵の恋－』で、作・演出は小池修一郎氏によるものです。この作品は、シリアスな第一部とコミカルな第二部という二部構成で、萩尾望都氏の作品「ポーの一族」からの影響も指摘されています。

初演と紫苑ゆう

初演は1987年2月28日から3月15日にかけて、宝塚バウホールで行われました。予想以上の好評を受け、同年10月10日から12日には東京日本青年館で再演が実現しました。主演は紫苑ゆうさんで、彼女の星組二番手時代を代表する作品の一つとして知られています。退団の際に再演を熱望する声が多くありましたが、初演メンバーを大切にするという思いから、実現には至りませんでした。

残念ながら、この初演版はCDやビデオの発売、テレビ中継は行われていません。しかし、紫苑ゆうさんの退団記念ショーで、ドラキュラ伯爵の衣装で主題歌を歌う場面がテレビ中継され、また、彼女の退団記念CD・ビデオにも収録されています。さらに、毬藻えりさんとの主題歌デュエットは、1992年のディナーショー収録ビデオ『Just in Time』で視聴可能です。

2008年の再演とバウワークショップ

それから21年後、2008年には花組によって再演されました。宝塚バウホール開場30周年を記念したワークショップの一環として、若手スターの真野すがたさんと朝夏まなとさんが主演を務め、2月と3月にそれぞれ上演されました。この再演は、過去のバウホール公演の人気作品を再演するという企画の一環として行われ、新たな世代の観客にも『蒼いくちづけ』の魅力が伝えられました。

ストーリー：時代を超える恋物語

第一部は1887年のロンドンを舞台に、永遠の命を持つ吸血鬼、ヴラド・ツェペシ伯爵（ドラキュラ伯爵）がウェステンラ家の長女ルーシーと恋に落ちるところから始まります。しかし、ルーシーの家庭教師であるジョナサンと、ジョナサンの恩師であるヘルシング教授の妨害により、伯爵は朝日を浴びて灰となってしまいます。

第二部は百年後の1987年。ウェステンラ家はドラキュラ博物館となり、ルーシーの曾孫であるヴィーナスがオーナーを務めています。ヴィーナスが曾祖母から受け継いだロケットを開けた際に怪我をし、その血が伯爵の灰に触れたことで、伯爵は現代に蘇ります。時代錯誤な伯爵と現代っ子のヴィーナスは衝突しながらも惹かれ合い、博物館の存続を賭けてロックコンテストに出場、見事優勝を果たします。そして、伯爵はヴィーナスに永遠の命を授ける「蒼いくちづけ」をし、二人は結ばれます。

登場人物：個性豊かなキャラクターたち

第一部と第二部には、個性豊かな登場人物たちが登場します。第一部では、ドラキュラ伯爵、ルーシー、ジョナサン、ヘルシング教授をはじめ、ウェステンラ家の家族や貴族、周辺の人物などが登場し、複雑な人間関係と愛憎劇が展開されます。第二部では、現代に蘇ったドラキュラ伯爵と、ロック歌手のヴィーナスを中心に、ヴィーナスの弟やレコード会社社長、ライバル歌手など、現代的なキャラクターたちが物語を彩ります。殺し屋トリオといったコミカルな要素も加わり、物語に変化を与えています。

スタッフ：豪華な制作陣

1987年の初演では、音楽に吉崎憲治氏と高橋城氏、振付にアキコ・カンダ氏と謝珠栄氏など、宝塚歌劇を代表するスタッフが参加。装置、衣装、照明など、舞台美術も細部までこだわって制作されました。

まとめ：忘れえぬ宝塚歌劇

『蒼いくちづけ』は、吸血鬼という魅力的な題材と、シリアスとコメディーの融合、そして豪華なキャストとスタッフによって生み出された、宝塚歌劇団を代表する作品の一つです。初演から年月が経った今も、その独特の世界観と魅力は多くのファンを魅了し続けています。 公式な映像記録は少ないものの、語り継がれる名作として、宝塚歌劇史に名を刻んでいます。

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