蒼き狼 (小説)

概要

『蒼き狼』（あおきおおかみ）は、井上靖が執筆した歴史小説であり、1959年から1960年にかけて『文藝春秋』に連載されました。この作品は、モンゴル帝国を築いた偉大なハーン、チンギス・カン（成吉思汗、鉄木真）の生涯を描いています。作品は、井上靖の西域小説群の一部として位置づけられており、特に『天平の甍』に続く流れを持っています。井上靖は大学生時代にチンギス・カンに関する文献に触れ、その研究を続けるなかでこの作品の構想を練り始めたといいます。

執筆の背景

井上靖がチンギス・カンに注目したきっかけは、当時の名著である小谷部全一郎の『成吉思汗ハ源義経也』（大正13年）や、戦後には那珂通世の訳注による『成吉思汗実録』に触れたことです。これらの資料をもとに、彼はチンギス・カンに関する詳しい資料を集め、自らの創作へと繋げていきました。しかし、執筆当時には実際にモンゴルを訪れたことはなかったとされています。特に1980年には、テレビ朝日で『蒼き狼 成吉思汗の生涯』というドラマが放送され、作品の認知度を高めました。

批判と評価

この作品に対しては、文学評論家の大岡昇平が批判を展開しました。彼は雑誌「群像」に連載された文芸時評の中で、『元朝秘史』に基づく井上靖の解釈について、彼が意図的に歴史的事実を歪めていると指摘しました。具体的には、物語内で「狼」とは実際には「頭を害う山犬」として描かれており、これは蒙古民族の文化背景に反したものであるという主張を展開しました。このような視点から、大岡昇平はこの作品が昭和30年代の歴史小説がどれほど非歴史的であるかを示す記録になると評しています。

関連項目

『蒼き狼』は、その文学的影響力から多くの関連項目や作品を生んでいます。例えば、コーエーから発売された歴史シミュレーションゲーム『蒼き狼と白き牝鹿・ジンギスカン』では、井上靖が創作したキャラクター、成吉思汗と忽蘭の間に生まれたガラウンが登場します。このゲームは『蒼き狼』の文学的要素を取り入れ、歴史を題材にしたエンターテインメントとして多くの支持を得ています。

『蒼き狼』は、井上靖が描く氏の文学の中での重要な作品であり、チンギス・カンの生涯を通して、人間の偉大さと歴史の深さについて考える契機を与えてくれます。

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