ハーン

ハーンとは

ハーン（汗、可汗、合罕、干、qaġan/qaγan、khaan）は、北アジアから南アジアにかけての地域において、特に東北の騎馬民族たちが使用した称号です。この称号は、古代の遊牧民の君主であったカガン（古テュルク語: - qaġan/qaγan）に由来し、古くから権威を示す役割を果たしてきました。

カンとカアンの違い

12世紀のモンゴル高原においては、称号「カン（Qan）」がモンゴル、ケレイト、ナイマンなどの部族の長が名乗る君主号として使われていました。特に、モンゴル帝国の創始者チンギス・ハーンもこの「カン」という称号を使用していましたが、彼の死後、次代のオゴデイは、より高位の存在を示すために古代の「カガン」を復活させ「カアン（qa'an, qaγan）」を用いるようになりました。この称号は、モンゴル帝国の最高君主によって引き継がれ、元王朝にも受け継がれました。

また、モンゴル帝国の西部に位置するテュルク系国家や西遼などの地域では、最高指導者を「カーン（khaqan、qa'an）」と呼ぶ慣習が見られました。このため、1220年代から「カン」と「カーン」の区別が徐々に定着し、特に記録文書の中で表記が変化していく様子が確認されています。

カーンとハーンの混同

モンゴル帝国の諸国では「カン（ハン）」という称号が広く使われましたが、ペルシア語ではこれが「ハーン（خان khān）」として発音・表記されるようになりました。このため、アラビア語圏では「ハーン」と「ハン」との二通りの表記が見られ、現代の文献でも混同することがあります。さらにペルシア語においては「カアン」を「カーアーン（قاآن qā'ān）」や「カーン（قآن qān/qa'ān）」と区別して表記・発音されます。

チンギス統原理の影響

モンゴル高原では、元朝崩壊後もチンギス・ハーンの子孫でない者がハーンの位に就くことはタブー視される習慣が生まれました。これは、チンギスの血を引かない者がいかに強力な勢力を築いても正当な君主とは認められないためです。15世紀、オイラトのエセンがハーンに即位しようとしましたが、内紛により即位後すぐに命を落としました。このような現象は、中央アジアや草原地域でも見られました。

一方、アナトリア半島やイラン、インドでは、チンギス家の血を引かない者がハーンの称号を名乗ることが増え、モンゴル帝国解体後には地方の首長などがこの称号を用いるようになりました。さらに時が経つにつれ、チンギス統原理も揺らぎ、ダライ・ラマの影響で他の部族指導者がハーンと称するようになりました。

清の時代のハーン

17世紀初頭、女真族のヌルハチが満洲（女真）のハンに即位し後金を既に建国しましたが、彼の子ホンタイジの時代にはモンゴルのハーンたちを服属させ、モンゴルに対してもハーンとして君臨することになります。このことにより、満洲のハンは元のハーン政権の後継者として位置づけられ、国号を清と改めました。

清の支配下では、ハーンは清朝皇帝の臣下としての遊牧民の王侯たちが用いる爵位としても機能していました。これにより、ハーンの称号は多くの地域で混在し、時代によってさまざまな解釈と使用法が見られました。

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