蒼ざめた馬を見よ

蒼ざめた馬を見よ

五木寛之が1966年に発表した短編小説『蒼ざめた馬を見よ』は、冷戦時代の情報戦を背景にした作品です。初めてこの物語が公表されたのは、1966年12月に発売された雑誌『別册文藝春秋』の第98号であり、その後、1967年の第56回直木賞を受賞しました。この短編小説は、同年の『オール讀物』4月号にも再度掲載されています。五木は直木賞受賞の前年、別の作品「さらばモスクワ愚連隊」で新人賞も獲得しており、この二つの作品によって実力派作家としての地位が確立されました。

あらすじ

物語は、新聞社の外信記者である鷹野隆介の肩にかかる重要な任務から始まります。論説主幹の森村洋一郎と外信部長の花田から、ソ連に渡り作家アレクサンドル・ミハイロフスキイの未発表の長編小説を手に入れるよう依頼されます。この小説は、ロシアのユダヤ系市民の三世代にわたる物語であり、ソ連では公開できないものでした。

鷹野は1966年8月23日、レニングラードを訪れ、ミハイロフスキイに会うことを目指しますが、最初は奥さんから不在と告げられます。そんな中、彼はキーロフ劇場で若いユダヤ人少女オリガと偶然出会い、彼女との交流を通じて、ミハイロフスキイとの面会を果たします。やがて、彼は念願の原稿を手に入れることに成功。彼の作品『蒼ざめた馬を見よ』は刊行されるや否や、世界中から賛美を浴びることとなります。

しかし、不幸なことにその3ヶ月後、ミハイロフスキイはソ連で逮捕されてしまいます。彼の裁判が迫る中、ダニエル・カナパと名乗る男が鷹野の元を訪れます。彼は、前に鷹野が会ったミハイロフスキイが実は偽物であることを告げ、冷戦の陰謀の中で利用された者だと説明します。この計画には、鷹野が無意識に利用されていることが浮き彫りになり、作家の根源的な存在や、政治的・社会的な条件下での創作活動の重要性が問われます。

ダニエルは、この成果物『蒼ざめた馬を見よ』が実際にはミハイロフスキイ本人によるものではなく、他の作家によって作成されたものであることを明かします。これは、西側が共産主義国に自由がないことを宣伝するための計画の一部であるといいます。ダニエルは、ミハイロフスキイを救えない現状を嘆き、「彼が有罪になれば一人の作家しか失われないが、無罪になればソ連文化界全体の信頼が揺らぐ」と説明します。

鷹野は、ダニエルから解放された後、タクシーに乗りながら、夜空を流れる蒼ざめた馬の姿を思い浮かべます。彼は自らが無情な運命に翻弄されていることを感じながら、冷戦の緊張が生み出す文化的な葛藤を胸に抱いています。

主要登場人物

• - 鷹野隆介: Q新聞外信記者
• - 森村洋一郎: Q新聞論説主幹
• - 花田: 隆介の上司、外信部長
• - 東野秀行: ミハイロフスキイと親交のあるロシア文学翻訳者
• - アレクサンドル・ミハイロフスキイ: 1920年代から活動する作家
• - オリガ: 22歳のユダヤ人少女
• - ダニエル・カナバ: 自称貿易商の白人

収録書籍

• - 1967年『蒼ざめた馬を見よ』文藝春秋
• - 2006年12月『蒼ざめた馬を見よ』(新装版) 文春文庫

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