蔣英 (明)

蔣英（しょう えい、1584年 - 没年不詳）は、中国明代後期の官僚です。字は𣶬甫（せんぽ）、号は瞻屺（せんき）と称しました。本貫は嘉興府嘉善県にあり、蔣汝能（しょう じょのう）と顧氏の間に生まれました。

1610年（万暦38年）、蔣英は進士の試験に合格し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。当初は松渓、漳浦、宜興といった各地の知県（県知事）を歴任し、地方行政に携わりました。その能力が認められ、天啓年間には南京験封郎中から福建副使へと昇進し、福建省の行政を担うこととなりました。

1626年（天啓6年）、福建道御史であった周宗建（しゅう そうけん）が死去すると、副使であった蔣英がその職務を代行することになりました。しかし、翌1627年（天啓7年）1月、蔣英は周宗建の罪に連座する形で官籍を削られ、一時的に官僚としての地位を失いました。その後、専横を極めた宦官の魏忠賢（ぎ ちゅうけん）が失脚し自死すると、蔣英は再び官界に復帰し、蘇州府と松江府の分巡（地方監察官）を任されました。

しかし、再び事件に連座して左遷されることになります。左遷先へ赴任する前に、かつて知県を務めた宜興県で民衆反乱が発生します。民衆はかつて宜興知県を務めていた蔣英に信頼を寄せていたため、上官の推薦により、蔣英は単騎で反乱民の説得にあたることになりました。当時、宜興県は蔣英の管轄ではありませんでしたが、蔣英は辞退することなく、単身で反乱鎮圧のために現地へ向かいました。

蔣英は、まず反乱を煽動していた現地の豪家とその取り巻き数人を処罰しました。すると、反乱民たちは自ら反乱の首謀者を官軍に差し出し、反乱は鎮静化しました。宜興県にはもともと豪家が多く、特に修撰の陳于泰（ちん うたい）と編修の陳于鼎（ちん うてい）兄弟が権勢を振るい、民衆の反乱を激化させていた背景がありました。蔣英は今回の反乱鎮圧を通じて、陳兄弟の勢力を抑え込むことに成功しました。しかし、宜興県出身で、陳兄弟とつながりのあった周延儒（しゅう えんじゅ）が、蔣英を憎んで弾劾しました。

その結果、蔣英は官位を降格され、官僚としての職を辞して故郷に帰ることになりました。蔣英は、地方官として民衆からの信頼も厚かった一方で、政敵との対立により、そのキャリアに幕を閉じることになったのです。

蔣英の生涯は、明代末期の官僚が直面した政治的混乱と、地方社会における権力闘争を象徴するものであり、その活躍と失脚の経緯は、当時の社会情勢を理解する上で重要な手がかりとなります。

参考文献

* 『明史』巻245 列伝第133

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