蔵王遭難事故

蔵王遭難事故：1918年の悲劇

1918年10月23日、蔵王連峰で発生した遭難事故は、宮城県立仙台第二中学校（現・宮城県仙台第二高等学校）の教員2名と生徒7名、計9名の尊い命を奪いました。この事故は、集団登山中の悪天候と、準備不足、経験不足が重なった結果、低体温症による犠牲者を出した悲劇として、歴史に深く刻まれています。

事故の経緯

10月22日、仙台第二中学校の教員5名と4・5年生の生徒150名は、集団登山のため青根温泉に到着しました。引率責任者は、退役陸軍大尉の体育教員で、学校内外からの信頼も厚い人物でした。しかし、蔵王登山の経験者はほとんどおらず（または皆無という説も）、この点が後の悲劇を招く要因となりました。

翌23日午前6時20分、一行は出発。責任者は軍隊式に全体を4分隊に分け、各分隊を4小隊に編成。文武両道に秀でた5年生を分隊長や小隊長に任命し、統率を図りました。しかし、食料は握り飯1つと餅2切れのみ。雇った現地ガイドも五色沼を経由して刈田岳に着いた時点で帰してしまい、十分な準備を怠っていました。

昼過ぎから天候は急激に悪化。先頭を進んでいた責任者の体育教員は、自分のペースで熊野岳からワサ小屋へと進み、午後1時半には高湯温泉に到着。16小隊中13小隊もこれに続きました。しかし、後方にいた3小隊は暴風雨に見舞われ、五色沼付近から遅れ始めました。気温も低下し、午後2時15分頃には雨が雪に変わりました。

当時、遭難現場周辺には山小屋などの避難施設はありませんでした。最後尾で引率していた教員2名は、熊野岳山頂にある石室を避難場所として利用しようとしました。体調を崩した生徒6名を誘導し、大小2つの石室にたどり着きましたが、やがて全員が動けなくなってしまいました。さらに、動けなくなった生徒の親友が、彼を探してワサ小屋から引き返し、石室で発見したものの、自身も風雪に阻まれ帰還できず、命を落としました。石室に到着した正確な日時については、全員が亡くなっているため不明です。

救助活動と発見

高湯温泉に到着した責任者らは、教員3名と生徒26名がいつまでも到着しないことを不審に思い、学校と警察に通報。しかし、天候悪化のため、上山警察署の捜索隊60名が捜索を開始できたのは25日の夕方でした。同時期、ワサ小屋で待機していた教員1名と生徒20名は、天候の回復を待って温泉に到着しました。しかし、教員2名と生徒6名、そして引き返した1名の行方は依然として不明でした。

翌26日、捜索隊40名以上が温泉側から捜索を開始。熊野岳の石室を捜索した結果、2メートル以上の積雪に埋もれた石室を発見。懸命の除雪作業により、午前11時40分頃、小さな石室から生徒4名、大きな石室から教員2名が他の3名を抱きかかえた状態で発見されました。生徒4名は石室到着後間もなく死亡し、教員2名は生徒たちの遺体を安置した後、残りの生徒を温めようとしたものの、石室が完全に雪に埋もれてしまったと推測されています。

事故の教訓と慰霊

この事故の責任を取り、第二中学校の校長であった渡辺文敏は引責辞任しました。現在、熊野岳の山頂には、9名の犠牲者を悼む慰霊碑が建立されています。

蔵王遭難事故は、登山における準備不足、経験不足、そして天候判断の重要性を深く認識させる教訓となりました。この悲劇を風化させないためにも、山岳事故防止への意識を高める必要があるでしょう。


参考文献
* 春日俊吉「生より死への帰還（蔵王山）」『山の遭難譜』二見書房、1973年、pp.43-53.

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