ゲイ雑誌

日本のゲイ雑誌：歴史、隆盛、そして現在

はじめに

日本のゲイ雑誌は、戦後の闇市文化から始まり、1970年代の商業誌ブーム、インターネット普及による激変期を経て、現代に至るまで、ゲイコミュニティの重要なメディアとして進化を遂げてきました。本稿では、その歴史、特徴、主要な雑誌、そして現在の状況を詳細に解説します。

戦後初期～1960年代：同人誌の時代

戦後間もない1950～60年代、男性同性愛を扱った出版物は、SMや性科学を扱う雑誌に男性同性愛関連の文章や写真が掲載される程度でした。しかし、1952年には会員制のゲイ雑誌『アドニス』が創刊され、これは日本のゲイ文化における重要なマイルストーンとなりました。その後、『同好』などの会員制雑誌や、SM雑誌『風俗奇譚』に男性同性愛専用のページが設けられるなど、地下文化としてゲイ雑誌は徐々に発展していきます。『風俗奇譚』では、後に商業誌で活躍する多くの作家がデビューしています。また、この時代には、三島由紀夫らも関与した『アドニス会』といったゲイサークルが活動し、同人誌が重要な役割を果たしました。

1970年代～1990年代中頃：商業誌の隆盛

1971年、商業ゲイ雑誌の草分け的存在である『薔薇族』が創刊されます。その後、『アドン』『さぶ』『The Gay』『サムソン』など、多くの商業雑誌が誕生し、ゲイ雑誌は隆盛を極めます。各誌は体型や年齢などの嗜好をターゲットに読者層を分化し、グラビア、官能小説、漫画などを中心に構成されました。しかし、異性愛者向けの成人誌とは異なり、生活情報や同性愛に関する情報、ゴシップ、体験談、悩み相談、出会いの場を提供する通信欄なども掲載され、多様な情報を提供する媒体としての役割も担っていました。

特に『薔薇族』の通信欄は盛況で、最盛期には1000通近くの投稿が掲載されたこともありました。また、多くのゲイバーやゲイビデオ、ゲイ風俗などの広告も掲載され、ゲイコミュニティの経済活動を支える役割も果たしていました。

グラビアにおいては、初期には欧米からの転載も多く、1980年代後半からはオリジナルモデルや新作ゲイビデオの紹介が増えていきました。しかし、社会情勢の変化や警察の取り締まり強化により、グラビアの修正は年々厳しくなっていきました。

1990年代中頃以降：新興雑誌とインターネットの影響

1990年代に入ると、『Badi』や『G-men』といった新しいゲイ雑誌が登場します。これらの雑誌は、従来の雑誌とは異なる、同性愛を肯定的に捉えた新しいスタイルでゲイコミュニティに提案しました。一方、『薔薇族』は異性愛者である編集長による保守的な編集方針により、ゲイコミュニティからの批判を受けることになります。

しかし、1990年代後半からのインターネット普及はゲイ雑誌に大きな影響を与えました。インターネット上のゲイ専用サイトや出会い系サービスの普及により、ゲイ男性は雑誌以外からも情報や出会いを容易に得られるようになりました。その結果、多くの老舗ゲイ雑誌は休刊または廃刊を余儀なくされ、『薔薇族』のみが現在も刊行を続けています。

流通と同人誌

『薔薇族』は創刊当初から全国の一般書店で販売されていたため、地方都市でも容易に購入することができました。現在もインターネット通販で入手可能です。

商業誌以外にも、1970年代後半からは多くのゲイサークルがミニコミ誌を発行し、ゲイの権利擁護やゲイムーブメントを展開しました。これらの活動もゲイ文化の発展に大きく貢献しています。

結論

日本のゲイ雑誌は、戦後の地下文化から商業誌の隆盛、インターネット時代の変革という激動の時代を生き抜いてきました。その歴史は、ゲイコミュニティの変遷と社会全体の変化を反映しています。現在、紙媒体のゲイ雑誌は『薔薇族』のみとなりましたが、その存在は依然として重要であり、今後の動向にも注目が集まります。

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