薩摩拳

なんこ（薩摩拳）

『薩摩拳』、通称『なんこ』は、日本の南州地域、具体的には鹿児島県および宮崎県南部で古くから行われている伝統的な盤上遊戯です。日本各地に伝わる様々な拳遊びの一つに数えられ、特に高知県などで酒席を盛り上げる座興として行われる『箸拳』のルーツとも見なされています。

歴史と特徴

その起源は、慶長3年（1598年）に島津義弘公が朝鮮の役（慶長の役）から薩摩へ帰還した際に始まったと伝えられています。長い歴史を持つ遊戯でありながら、その道具は非常にシンプルです。

「なんこ棒」と呼ばれる専用の遊具が存在しますが、必ずしもこれが必要というわけではありません。代替として、全長が10センチメートル程度、直径が1センチメートルほどの棒状のものが6本あれば十分に対応できます。そのため、携帯性に優れ、どこでも手軽に始められるポータブルゲームとしての一面も持っています。

また、『なんこ』は、大人と子ども、あるいは経験豊富な熟練者と初心者といった異なる層の人々が、互いにほぼ対等な立場で楽しめる気軽さも大きな魅力です。難しい技術や特別な身体能力は要求されず、誰もが参加しやすい遊びとして地域に根付いています。

遊戯のルール

『なんこ』の基本的なルールは以下の通りです。

1. 親子の決定: まず、じゃんけんなどの方法で、その回の親と子を決めます。一般的には、じゃんけんに勝った方が親を務めることが多いようです。
2. 棒を握る: 親と子はそれぞれ、相手から見えないように一方の手に『なんこ棒』（または代替の棒）を縦に握り込みます。このとき握る本数は、0本から最大3本までです。
3. 手を盤に置く: 子が握り込んだ手を「なんこ盤」と呼ばれる盤（または卓上など）の上に置きます。続いて親も同様に手を盤上に置きます。
4. 合計本数の予想と宣言: 盤上に置かれた二つの手に握られている棒の合計本数を予想します。最初に親が予想した数を声に出して宣言します。
5. 子の宣言: 次に子が予想した数を宣言します。ただし、子が宣言する際は、親が先に宣言した数を避ける必要があります。例えば、親が合計数を「4」と宣言した場合、子は0、1、2、3、5、6のいずれかを宣言することになります。
6. 答え合わせ: 両者が宣言を終えたら、盤上でお互いの手を広げ、握り込んでいた棒の本数を晒して、実際の合計本数を確認します。
7. 勝敗と親子交代: 双方の宣言が実際の合計本数と一致しなかった場合、その回は引き分けとなり、親子が交代します。どちらか一方、あるいは両方が正解した場合の扱いは後述の勝利条件に関わります。
8. 勝利条件: 規定数を先に正解させた方が勝者となります。一般的には2本（回）先取が勝利条件とされることが多いですが、多数の参加者による団体戦などでは、1本先取とする場合もあります。
9. 敗者への罰: 勝負に敗れた者は、千代香（ちよか：芋焼酎を温めるための酒器）から盃に注がれた焼酎を、息継ぎせずに一気に飲み干すのが慣例となっています。
10. 勝負の継続: 定められた勝利回数に達するまで、あるいは参加者たちの気が済むまで、この一連の流れを繰り返します。

特別ルール

遊戯にはいくつかの特別なルールや慣習も存在します。

飲酒の代替: もし対戦者が何らかの事情で飲酒できない場合は、決して無理強いしてはならず、代わりに黒酢などで代用するのが一般的です。
花: 地域によっては、勝者が敗者から献杯（敗者が勝者に酒を注いで敬意を示すこと）を受ける慣習があり、これを「花（はな）」と呼ぶことがあります。

『なんこ』は、そのシンプルさの中に奥深さを持ち、地域の交流や親睦を深める遊びとして、現在も多くの人々に親しまれています。

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