薩藩旧記雑録

「薩藩旧記雑録」は、江戸時代後期から明治期にかけてまとめられた、島津氏及び薩摩藩家臣に関する膨大な文書集です。この文書集は、鎌倉時代から明治時代に至るまでの歴史を網羅しており、島津氏や薩摩藩の政治史を研究する上で欠かすことのできない根本史料とされています。

編纂の経緯

「薩藩旧記雑録」の編纂は、薩摩藩の記録奉行であった伊地知季安が、文政年間に藩内各地の文書や記録の書写・蒐集を始めたことに端を発します。その後、季安の息子である季通がその事業を引き継ぎ、明治13年（1880年）に浄写作業が完了しました。しかし、その後も季通による増補訂正作業は続けられ、最終的には明治30年（1897年）までその作業が続けられました。この長期間にわたる編纂作業は、「薩藩旧記雑録」の網羅性と詳細さを物語っています。

内容の特徴

従来の薩摩藩では、『島津世家』や『島津国史』といった正史が編纂されていましたが、これらは漢文による物語調の記述が中心でした。一方、「薩藩旧記雑録」は、古文書を編年順に整理することに重点を置いており、編纂者の主観や解釈が入り込む余地を極力排除しています。この点に、本書の大きな特色があります。

また、収録されている古文書の中には、廃仏毀釈や西南戦争などの影響で現存しないものも多く、史料としての価値は非常に高いと言えます。ただし、編纂作業が少人数で行われたため、書写ミスや重複が見られる点には注意が必要です。また、中世文書や近世藩政史料の一部（知行目録など）は収録されていないことも留意する必要があります。

写本について

「薩藩旧記雑録」には、主に3種類の写本が存在します。

1. 島津家本：伊地知季安・季通親子による自筆草稿本で、東京大学史料編纂所が所蔵しています。この写本の外題は『旧記雑録』となっています。平成9年（1997年）には、国の重要文化財に指定されています。
2. 内閣文庫本：明治13年（1880年）に内閣修史局に提出されたもので、国立公文書館が所蔵しています。外題は『薩藩日記』となっています。
3. 県立図書館本：内閣文庫本の原稿と思われる写本で、鹿児島県立図書館が所蔵しています。外題は『薩藩旧記雑録』となっています。

各写本で収録範囲や内容に若干の違いが見られます。

各写本の構成

島津家本

前編：48巻（1041年～1554年）
後編：102巻（1555年～1644年）
追録：182巻（1644年～1895年）
附録：30巻（年月特定不能文書）

内閣文庫本、県立図書館本

前編（前集）：36巻（1041年～1554年）
後編（後集）：32巻（1555年～1615年）
追補：3巻（1616年～1644年）※県立図書館本のみ
附録：5巻　※県立図書館本のみ

刊行物

現在、「薩藩旧記雑録」は、鹿児島県歴史資料センター黎明館が発行している『鹿児島県史料』にて、順次刊行されています。これにより、広く研究者が本書を利用できるようになりました。

参考文献

『近世藩政・藩校大事典』（大石学編、吉川弘文館）ISBN 4642014314

外部リンク

(外部リンクは省略)

もう一度検索