伊地知季安

伊地知季安：薩摩藩の歴史を編纂した碩学

伊地知季安（いじち すえよし）は、江戸時代後期の薩摩藩士であり、記録奉行として藩の歴史編纂に尽力しました。天明2年（1782年）に生まれ、慶応3年（1867年）に85歳で没するまでの生涯を、激動の時代の中でその才能を発揮しました。

生い立ちと家系

季安は、鹿児島藩士・伊勢貞休の息子として生まれましたが、後に同じく薩摩藩士である伊地知季伴の養子となります。実父の家系は、島津家久の筆頭家老であった伊勢貞昌の末裔であり、本田家は代々記録奉行を輩出していました。このような家系背景が、季安の歴史研究への関心を育んだと考えられます。

若き日の苦難と学問への情熱

20歳で伊地知家の養子となり「季彬」と改名後、順調に出世を重ねますが、文化5年（1808年）に近思録崩れに連座し、喜界島へ流刑となります。これは、近思録派のリーダーであった秩父季保が伊地知家の本家筋にあたったためでした。帰還後も自宅謹慎を余儀なくされるなど、不遇な時期を過ごしますが、この間、季安は独力で藩内の史料をまとめ、『旧記大苑』という目録を作成します。この目録は、彼の類まれなる学識と情熱を示すものでした。

在野の史学者として

謹慎解除後も、すぐに藩への仕官は叶いませんでしたが、季安は従兄弟である本田親孚の遺作を修訂増補するなど、研究活動を継続します。その著作が、垂水家分家の末川周山の目に留まり、藩内外の多くの人々から支援を受けるようになり、在野の史学者としての名声を確立します。また、昌平坂学問所の佐藤一斎とも交流を持つなど、その学識は広く知られるようになりました。しかし、そのことが藩の記録所からの嫉視を招き、著作を上納させられるという不遇も経験します。

記録奉行としての活躍

著作上納という苦難を乗り越え、季安の博識ぶりは藩主・島津斉興の目に留まり、弘化4年（1847年）に再仕官を果たします。その後、家老・調所広郷によって軍賦役に任命され、66歳という高齢ながらも藩政に貢献しました。そして嘉永5年（1852年）、島津斉彬によって記録奉行に任命され、長年の学識と経験を活かし、藩の歴史編纂に尽力しました。特に、『薩藩旧記雑録』の編纂は、彼の最も重要な功績の一つと言えるでしょう。

主な著作

季安は生涯にわたり多くの著作を残しました。その中でも特に重要なものとして、

寛永軍徴: 島原の乱前後の鹿児島藩の史料をまとめたもの
薩藩旧記雑録: 薩摩藩の歴史を詳細に記録した編纂物
漢学紀源、松山領代官執務要鑑、薩隅日田賦雑徴
薩州唐物来由考
などがあります。これらの著作は、当時の薩摩藩の歴史や文化を知る上で、非常に貴重な資料となっています。

晩年と死

慶応3年（1867年）、季安は御用人の役方として85歳でその生涯を閉じました。その墓は鹿児島市の興国寺墓地にあります。彼の残した業績は、今日の歴史研究においても重要な位置を占めています。

季安は、その生涯を通して、歴史への深い探究心と、それを後世に伝えようとする情熱を持ち続けました。彼の存在は、薩摩藩の歴史だけでなく、日本の歴史全体においても重要な意味を持つと言えるでしょう。

もう一度検索