藤原喜久男

藤原喜久男（ふじわら きくお）は、1948年に兵庫県で生まれ、2009年9月30日にその生涯を閉じたアメリカ系日本人の歌手です。特に「ピートマック・ジュニア（Pete Mac, Jr.）」という活動名義で広く知られています。

神戸市に生を受けた彼は、アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれましたが、父は朝鮮戦争への出兵後、消息を絶ちました。藤原は神戸市内で働きながら定時制高校に通うという苦労を重ねる少年時代を送ります。

音楽への情熱は早くから芽生え、1964年、あるパーティーで歌声を披露していた際に友人の目に留まり、彼の所属するグループにバンドボーイ兼ボーカリストとして参加する機会を得ます。その後、彼は独立して自身のバンドを結成し、約3年間にわたり神戸を拠点に精力的な音楽活動を展開しました。

1968年になると、彼は新たな展開を迎えます。リズム・アンド・ブルース（R&B）色の強いサウンドで注目されていたグループ、ザ・ホワイト・キックスのリーダーである三保敬太郎からの誘いを受け、リードシンガーとして加入し、同時に上京を果たします。この時期、彼は田端義夫の長男である田端義継が結成したグループ・サウンズ、ザ・マミーズにも参加。田端とのツインボーカルでパフォーマンスを行い、新宿音楽祭やヤマハ主催の野外フェスティバル、ネムジャズインなどにも出場するなど、多角的な活動を展開しました。

本格的なプロの歌手として道を究めるため、1969年9月、彼はジャズ界の重鎮として知られる原信夫に師事します。以後数年間にわたり、原率いるシャープス・アンド・フラッツの一員として、そのソウルフルな歌声でR&Bナンバーを歌い上げました。この頃から、現在の名義である「ピートマック・ジュニア」を使用するようになります。1970年には、映画『高校生番長 深夜放送』の主題歌「午前0時のロック」を、「ピートマック・ジュニア＆原信夫とシャープス・アンド・フラッツ」名義で担当しました。

1971年には、キャリア初となるソロアルバム『Pete Mack Jr.』をリリース。翌1972年には、東宝映画『脱出』で俳優としても主演を務め、自身が主題歌「ブラック・コーヒー」も担当しましたが、当時のあさま山荘事件の影響もあり、映画は公開が見送られるという不運に見舞われました。

しかし、彼の歌声は予期せぬ形で世界に響き渡ります。1973年、日本テレビ開局20周年記念として制作されたテレビドラマ『水滸伝』の主題歌「夜明けを呼ぶもの」を歌唱。このドラマが1976年にイギリスBBCで放送された際、ゴダイゴによる英語版主題歌とのカップリングシングル「The Water Margin」としてリリースされると、全英シングルチャート（Music Week）で最高37位を記録するという国際的な成功を収めました。

1978年には、国民的アニメ『ルパン三世』のテーマ曲に歌声を乗せたボーカル・バージョンをリリースします。この起用は、『ルパン三世』作品が持つ独特な無国籍感を維持したいという制作側の意向によるものでした。作曲者の大野雄二は、インストゥルメンタルとして作曲されたこの曲が、ピートマック・ジュニアにとって音域が広く、歌唱に苦労したことを後に回顧しており、「よく歌ったと思うよ。「男には」の後、「自分の世界がある」が出なくて苦労していたけど、なんとか頑張って歌っていたよ」とその努力を称えています。

数々の印象的な歌声を残したピートマック・ジュニアこと藤原喜久男は、2009年9月30日、61歳で死去しました。公には死因は明らかにされていませんが、関係者の間では薬物が原因であったと囁かれています。短いながらも波乱に満ちた生涯と、そのソウルフルな歌声で、日本の音楽シーンに確かな足跡を残しました。

もう一度検索