藤原忠衡

奥州藤原氏武将・藤原忠衡：義経擁護と悲劇の生涯

平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて、奥州藤原氏において活躍した武将、藤原忠衡。彼は奥州藤原氏第三代当主・藤原秀衡の三男であり、第四代当主・藤原泰衡の異母弟でした。秀衡の館に近い泉屋の東側を住居とし、その生涯は父・秀衡の遺言と、兄泰衡との対立によって彩られています。

父の死と遺言、義経保護の主張

文治3年（1187年）、秀衡は平泉に庇護していた源義経を主君として擁立し、兄弟で結束して鎌倉の源頼朝に対抗するよう遺言して亡くなりました。この遺言は忠衡の行動を大きく規定することとなります。忠衡は父の遺志を継ぎ、義経を大将軍に擁立して頼朝に対抗しようと主張しました。

義経の死と忠衡の誅殺

しかし、兄の泰衡は頼朝の圧力に屈し、義経とその一族を殺害するという決断を下しました。文治5年（1189年）、泰衡は義経の首を鎌倉に送ることで恭順の姿勢を示しますが、頼朝の真意は奥州藤原氏の滅亡にありました。義経庇護の罪を問われ、泰衡討伐の宣旨が出されます。この状況下、奥州では内紛が勃発。忠衡は父の遺言を無視した泰衡に反乱を起こした、あるいは反乱を計画したと見なされ、泰衡によって殺害されました。享年23歳でした。同母弟とされる通衡もまた、忠衡と共に命を落としました。『吾妻鏡』の記述によると、忠衡の死には軍事衝突が伴っていたようです。

「忠衡の首」という誤認

中尊寺金色堂に安置されている秀衡の棺の中に保存されていた首は、長らく忠衡のものだとされてきました。首桶には「忠衡公」と記されていたためです。しかし、昭和25年に行われた調査で、その首級には多数の切創や刺創が確認され、特に眉間から鼻筋、上唇にかけての深い傷は、『吾妻鏡』の記述にある「泰衡の首級には眉間に鉄釘が打ち付けられていた」という記述と一致しました。これらのことから、現在ではこの首級は泰衡のものだとする説が定説となっています。この誤認は、義経への同情から生まれた「忠衡こそが真の跡継ぎだったのではないか」という思い込みや、謀反人の泰衡が金色堂に安置されるはずがないという長年の通説が影響していると考えられています。近親者による意図的な隠蔽工作の推測もあります。

忠衡の子孫と伝わる伝説

忠衡の子孫に関する様々な伝承が残されています。岩手県に関する文献には、奥州藤原氏系の中野氏の祖先が忠衡の子孫であり、北海道に居住していたと記されています。また、忠衡生存伝説も存在し、義経と共に平泉を脱出したという複数の説があります。これらの伝説は、忠衡が北へ逃れたという共通の要素を含み、それぞれ異なる地域に子孫を残したと伝えられています。例えば、武藤氏、泉沢家、中野家、吉田家など、様々な家系が忠衡の子孫を自称しています。それぞれの家系には、義経や弁慶に関連する伝承や古文書などが残されているケースもあります。さらに、臼杵藩帰参家の佐藤氏系図には、忠衡の妾の子が加藤氏の祖になったという記述も見られます。石川県能登地方にも忠衡が逃れて泉家の祖となったという伝承があり、県木のアテと関連付けられています。

忠衡を題材とした作品

忠衡は、歴史ドラマ『炎立つ』（NHK大河ドラマ）においても描かれ、その悲劇的な生涯は多くの人々の関心を集めています。

まとめ

藤原忠衡は、父秀衡の遺言、義経、そして兄泰衡との複雑な関係の中で生きた、奥州藤原氏滅亡期を象徴する悲劇的な人物です。彼の死後も、首級をめぐる謎や、各地に残る子孫の伝承は、人々の想像力を掻き立て、歴史の奥深さを感じさせます。

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