藤山直樹

藤山 直樹（ふじやま なおき）氏は、1953年生まれの日本の精神科医であり、精神分析家です。上智大学名誉教授として、長年にわたり精神分析学の研究と教育に多大な貢献をしてきました。

福岡県に生まれ、山口県で育った藤山氏は、1978年に東京大学医学部医学科を卒業しました。その後、東京大学医学部附属病院での医員を経て、1982年には帝京大学医学部附属病院の助手となります。1989年には帝京大学医学部附属溝口病院へ異動し、精神医学の臨床経験を積みました。1994年からは東京大学保健管理センターの講師として勤務し、学生のメンタルヘルス支援にも関わりました。

この間、藤山氏は精神分析に関する研究を深め、帝京大学より博士（医学）の学位を取得しています。博士論文のテーマは「解釈はどのようにして用いられるのか—解釈を「証明」する行動を素材として」であり、精神分析における重要な技法である「解釈」に焦点を当てたものでした。

大学教員としては、1999年に日本女子大学人間社会学部の教授に就任し、後進の育成にあたりました。また、この頃から精神分析オフィスを開業し、臨床家としても活動の幅を広げています。2000年には東京大学の客員教授も務めました。そして、2001年には上智大学文学部心理学科の教授に就任。2005年には同学部の改組に伴い総合人間学部心理学科の教授となり、2019年に退任するまで、約20年間にわたり上智大学を拠点に教育・研究活動を精力的に行いました。現在は同大学の名誉教授です。

精神分析家としての藤山氏は、国際精神分析学会の正会員および認定精神分析家であり、日本の主要な精神分析関連学会でも重要な役割を果たしてきました。日本精神分析協会では正会員および訓練分析家として、将来の精神分析家を育成する立場にありました。さらに、日本精神分析学会の会長も務めるなど、日本の精神分析界を牽引するリーダーの一人として、その発展と普及に尽力しました。

藤山氏の学術的業績は、多くの著書や翻訳書に結実しています。単著としては、精神分析の営みや理論、臨床について深く掘り下げた『精神分析という営み』シリーズや『精神分析という語らい』、精神分析の基礎からフロイト以後までを包括的に解説した『集中講義・精神分析』（上・下）などがあります。また、『落語の国の精神分析』では、日本の伝統芸能である落語を精神分析的な視点から考察するというユニークな試みを行っています。共編書としては、『現代フロイト読本』に携わり、フロイト思想の現代的意義を論じています。さらに、T.H.オグデンの『こころのマトリックス』、ウィニコット著作集の一部、サンドラーらの『患者と分析者』など、海外の重要な精神分析文献の翻訳・監訳も数多く手がけており、国内の精神分析研究者に貴重な資料を提供しています。

これらの功績に対し、1994年には日本精神分析学会奨励賞を受賞しています。

藤山氏の専門分野は、精神医学、精神分析学、精神療法に及び、特に境界例やパーソナリティ障害といった臨床テーマについても深く考察を行っています。長年の臨床経験と学術研究に裏打ちされたその知見は、日本の精神医療および精神分析学の発展に不可欠な貢献をもたらしています。上智大学名誉教授となった現在も、その影響力は精神分析界において大きいと言えるでしょう。

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