藤岡和賀夫

藤岡和賀夫：時代を映し出した広告プロデューサー

藤岡和賀夫（ふじおか わかお）は、1927年（昭和2年）に生まれ、2015年（平成27年）に亡くなった、日本の広告プロデューサーです。彼のキャリアは、単なる広告制作にとどまらず、社会や生活者の価値観に深く根ざしたメッセージを発信し、時代を動かす原動力となりました。

生い立ちと電通入社

兵庫県で生まれた藤岡は、3歳から東京で育ちました。旧制東京高等学校から東京大学へと進み、1950年（昭和25年）に法学部を卒業後、電通に入社しました。国家公務員試験にも合格していましたが、兄がすでに大蔵省に入省していたため、「もう比べられたくない」という思いから、映像の仕事に携われる可能性のある電通を選んだと言います。

「脱広告」という視点

藤岡は、従来の広告の枠にとらわれない、「脱広告」という視点を持ち、社会や生活者の価値観に語りかける広告を追求しました。1980年（昭和55年）にはPR局長（役員待遇）に就任。電通内では、その才能を高く評価する声もあれば、目立ちたがり屋だと批判する声もあり、毀誉褒貶が激しかったと言われています。1987年11月に電通を退職し、フリーのプロデューサーとして活躍を始めました。

フリーランスとしての活躍と晩年

フリー転身後は、「直伝塾」を創設し、後進の育成に力を注ぎました。また、文化イベントのプロデュースにも携わり、晩年は、日本各地を訪ね歩き、失われつつある原風景や言葉を記録に残す活動を行いました。

代表的なプロデュース作品

「モーレツからビューティーフルへ」

1970年（昭和45年）に発表されたこのコピーは、藤岡が初めて「脱広告」を試みた作品として知られています。富士ゼロックスの広告でありながら、商品や企業をPRする言葉は一切なく、企業の名前がなければ広告とすら認識できないほどでした。高度経済成長期の「モーレツ」な時代から、人間らしい生き方を求める「ビューティーフル」な時代への変化を訴えかけました。

「ディスカバー・ジャパン」

1970年代初頭、国鉄のキャンペーンとして展開された「ディスカバー・ジャパン」は、日本人の旅への意識を変えた画期的なものでした。大阪万博後の旅客減少を防ぐための企画としてスタートしましたが、「日本を見つける旅」というコンセプトは、多くの人々の心を捉え、長期的なキャンペーンへと発展しました。ポスターには、わざとぶれた写真を使用するなど、既存の広告の概念を覆すものでした。このキャンペーンは、7年間も続くロングランとなりました。

その他のキャンペーン

「ディスカバー・ジャパン」に続き、山口百恵が歌った「いい日旅立ち」、オイルショック後の企業批判を受けていた三井物産のために企画された「学びの出発」、資生堂とワコールがスポンサーとなり、南太平洋を舞台にした「南太平洋キャンペーン」など、数々の革新的なキャンペーンを手掛けました。

アンブレラ方式

藤岡は、コンセプトづくりを先行させ、そのコンセプトを基にイベントを企画し、そこにクライアントが参加するという「アンブレラ方式」を提唱しました。この手法は、従来の広告の概念を覆すものであり、「脱広告」「自立した広告」として評価されました。

著書

数々の著書を通じて、自身の広告哲学や時代に対する考察を伝えました。『華麗なる出発 ディスカバー・ジャパン』、『現代軍師学心得』、『さよなら、大衆 感性時代をどう読むか』など、多くの著作が、後進の広告プロデューサーやクリエイターに影響を与えました。

まとめ

藤岡和賀夫は、広告プロデューサーとしてだけでなく、時代の変化を敏感に捉え、社会や人々の意識に深く影響を与えた人物でした。彼の革新的な発想と、既存の枠にとらわれない自由な精神は、今日の広告業界においても、重要な示唆を与え続けています。

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