藤川繁久

藤川 繁久

藤川 繁久（ふじかわ しげひさ）氏は、香川県観音寺市を拠点に活動する日本のアマチュア天文家です。半世紀を超える長年の観測活動を通じて、数多くの希少な天体を発見しており、特に彗星探索家および新星発見者として世界的に知られています。

藤川氏の天文観測は、初期にはアマチュア天文家でレンズ研磨師でもあった中順三郎氏が製作した口径12cmと16cmの反射望遠鏡を用いた眼視観測が中心でした。空の暗い夜を選び、自身の目で星空を丁寧に観察するスタイルで、多くの時間を費やしました。しかし、2000年代に入ると、より効率的で高性能な機材を導入することで、観測手法を大きく転換します。具体的には、PENTAXの6×7一眼レフカメラ用レンズ（F2.4、焦点距離105mm）や自作のF3.5、焦点距離120mmのレンズを主要な光学系とし、これにビットラン製の冷却CCDカメラ（BJ-45LやBN-51LN）を組み合わせて使用するようになります。これらの機材を三鷹光器製の高精度なGNL-26型赤道儀に搭載し、広範囲の空を組織的に撮影・観測する掃天観測を継続的に実施しています。この機材の刷新は、より淡い天体を捉えるため、そして広大な領域を効率よく探索するために不可欠な進化でした。

藤川氏の最も顕著な功績の一つは、彗星の発見です。1968年に天文観測を開始して以来、実に50年以上の歳月をかけ、これまでに合計10個の彗星を自身の観測によって発見しました。この発見数だけでも驚異的ですが、さらに特筆すべきは、発見した彗星のうち7個に発見者として藤川氏自身の名前が冠されている点です。これは、その発見が独立した新しい天体として国際的に認められた証であり、アマチュア天文家としては極めて稀な偉業と言えます。特に、1978年10月10日には、1881年にウィリアム・デニングによって発見された後、長らく行方不明となっていたデニング彗星を再発見しました。この再発見は天文界に大きなニュースをもたらし、この彗星は「72P デニング・藤川彗星」として正式に命名され、現在もその名前で呼ばれています。デニング・藤川彗星は回帰時の光度が17～18等級と非常に淡く、その検出は極めて困難でした。2000年代に入ってからの悪条件の回帰を捉えるにあたり、日本の著名な天文学者である長谷川一郎氏から冷却CCDカメラの活用について助言を受けたことが、藤川氏がCCDカメラによる観測を本格的に導入する大きな契機となりました。これは、高感度な冷却CCDが淡い天体の検出に極めて有効であることを示すエピソードでもあります。

彗星の発見に加え、藤川氏は新星の発見においても目覚ましい成果を上げています。これまでに6個もの新星を発見しており、そのリストには2012年のいっかくじゅう座V959、2015年のへびつかい座V2949といて座V5850、2016年のさそり座V1656、2019年のオリオン座V2860、そして2020年のいて座V6568などが含まれます。新星は突発的に明るくなる恒星であり、その発見は非常に難しく、藤川氏の継続的な掃天観測の努力の賜物と言えます。また、新星以外にも、明るさの変化が小さい矮新星なども複数発見しており、その発見対象は多岐にわたります。

長年にわたる天文観測への貢献は、社会からも高く評価されています。2018年には環境省より、香川県高松市で開催された「星空の街・あおぞらの街」全国協議会において、第30回協議会会長賞個人賞を受賞しました。これは、単に天体を発見したというだけでなく、星空への関心を高め、広く社会に貢献した功績が認められたものです。

藤川繁久氏は、最新技術を取り入れつつ、ひたむきに星空を見つめ続ける姿勢で、アマチュア天文家として世界の天文学に貴重な貢献を続けています。その発見は、多くの人々に宇宙への興味を抱かせ、探求心を刺激するものです。

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