デニング・藤川彗星

デニング・藤川彗星 (72P/Denning-Fujikawa)

デニング・藤川彗星は、19世紀後半に初めて確認され、その後一度姿を消しながらも20世紀後半に再び発見され、さらに21世紀に入って再々検出された、興味深い観測史を持つ短周期彗星です。

発見とその後の足跡

この彗星が初めて天文学者の視野に入ったのは1881年のことです。イギリスの天文学者ウィリアム・デニングは、同年10月4日早朝、しし座に明るく輝く8等級の彗星を発見しました。この彗星は9月13日に近日点を通過しており、発見後も11月25日まで継続して観測されました。デニングは後に別の周期彗星も発見したため、この1881年に見つけられた彗星は区別のため「デニング第1彗星」と称されました。

しかし、その後の回帰、すなわち1890年、1899年、1908年、1916年、1925年、1934年、1943年、1952年、1960年、1969年には、観測に適した条件であったにもかかわらず姿を現さず、特に1916年、1960年、1969年のように地球に比較的接近する機会でも再発見に至らなかったため、完全に失われた彗星であると考えられていました。約97年もの間、その行方は知れぬままでした。

驚きの再発見

長い空白期間を経て、デニング第1彗星は予期せぬ形で再び天文学界に姿を現します。1978年10月10日早朝（日本標準時）、香川県でアマチュア天文家として活動していた藤川繁久氏が、自身所有の12センチ双眼望遠鏡で彗星捜索を行っていた際、しし座の中に11等級の新彗星を発見したのです。この彗星は尾や核がはっきりしない特徴を持ち、発見者の名にちなんで「藤川彗星（1978n）」と仮称されました。

発見された彗星の初期軌道が計算されると、それはかつて見失われたデニング第1彗星の軌道と驚くほど一致することが判明しました。その後の詳細な観測に基づき軌道が確定され、正式にデニング第1彗星の再発見であると認められました。これを受けて、この彗星は発見者両氏の名を冠し「デニング・藤川周期彗星」と改名され、周期彗星番号72Pが付与されました。1978年の回帰では、最大で10等級まで明るくなりましたが、中央に集光部を持たない拡散したコマが特徴で、11月下旬には急速に光度を失いました。

再びの観測困難期、そして再々検出

1978年の再発見後も、デニング・藤川彗星の観測は容易ではありませんでした。次に到来する1987年の回帰は、計算上では11等級に達すると期待されていましたが、残念ながら観測できませんでした。続く1996年、2005年の回帰においてもその姿は確認されず、再び観測不能な状態が続いたため、一時的に失われた彗星を示すD符号（72D）が付与されました。彗星の活動が弱まったり、軌道のわずかな変動によって位置予測が難しくなったりしたことが原因と考えられます。

しかし、この彗星は再び観測者の前に姿を現しました。2014年6月17日（世界時、日本時間では18日早朝）、東京在住のアマチュア天文家である佐藤英貴氏が、オーストラリアにあるサイディング・スプリング天文台の望遠鏡をインターネット経由で遠隔操作して撮影したデジタル画像の中から、この彗星を検出することに成功したのです。これは1978年の再発見以来、実に36年ぶりのことです。検出された時点ではくじら座の領域に位置しており、明るさは16.8等級とかなり淡くなっていました。観測されたのは直径約25秒角の、やや集光したコマでしたが、尾部は確認されませんでした。

デニング・藤川彗星の観測史は、彗星という天体の予測の難しさ、そしてアマチュア天文家の情熱と最新技術（この場合はリモート観測）の組み合わせがいかに重要であるかを示しています。今後もその動向が注目される彗星の一つです。

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