藤田文江

藤田 文江（ふじた ふみえ）

日本の詩人。1908年（明治41年）9月29日に生まれ、1933年（昭和8年）4月24日に逝去しました。わずか24歳という若さでこの世を去りましたが、フランスの詩人シャルル・ボードレールから強い影響を受けたとされる、耽美的で感覚的な詩を残しました。

生涯

藤田文江は、1908年に現在の鹿児島県奄美市にあたる鹿児島県大島郡名瀬村で生を受けました。幼少期には鹿児島市や台湾へと居を移し、14歳までの多感な時期を台湾で過ごします。台北第二高等女学校に入学後、再び鹿児島へ戻り、鹿児島県立第二高等女学校（現在の鹿児島県立甲南高等学校）に編入しました。1925年に同校を卒業すると、鹿児島女子師範学校（現在の鹿児島大学教育学部）へと進学し、翌1926年に卒業。一度は小学校の教壇に立ちましたが、生まれつき病弱であったため長くは勤められず、退職を余儀なくされます。その後、再び鹿児島女子師範学校の専攻科で学びました。

詩人としての歩み

詩作活動は、鹿児島県立第二高等女学校の在学中に始まります。師範学校を卒業した1926年には、当時七高教授であった新屋敷幸繁が発行していた詩誌「南方楽園」に参加。さらに1929年には、幸繁の妻である新屋敷つる子が主宰する女性詩誌「くれない」の同人となります。しかし、「くれない」には長く留まらず、第4号で同人を脱退。この背景には、主宰者であったつる子が藤田文江の文才に感じた嫉妬や、互いの新屋敷幸繁への複雑な思いが絡み合っていたとする見方があります。

「くれない」脱退後も、詩作への情熱は衰えることなく、1930年には自ら詩誌「松籟」を創刊。さらにその後、「プラナス」も立ち上げ、自身の詩を発表する場を広げました。また、宮崎孝政が編集する詩誌「詩神」に発表した詩が認められ、1930年に新人推薦を受けます。これを機に、「詩神」で出会った新人同人仲間とともに、1931年には岡山で詩誌「タテガミ」（間野捷魯編集）の発行に携わりました。同年には別の詩誌「鬣」の同人にも加わりますが、「鬣」は翌1932年に終刊となります。その他にも「牧神」や「茉莉」といった詩誌に積極的に詩を発表し、同時代の詩人である永瀬清子とも手紙を通じて交流を深めました。

詩人としての評価が高まる中、1933年には万国婦人子供博覧会に応募した詩が一等に入選するという栄誉に輝きました。この作品はコロンビアレコードから、信時潔作曲によるレコードとして世に出ることとなります。地元の鹿児島新聞（後の南日本新聞）は、彼女の才能を「昭和鹿児島の紫式部」と讃え、大きな期待を寄せました。

作風と評価

藤田文江の詩は、フランス象徴主義を代表する詩人ボードレールの影響を強く受けていることが指摘されています。人間の内面、特にその暗い側面や隠された感情を深く掘り下げ、感覚的、官能的、そして耽美的な表現を特徴としました。詩の主題としては「夜」を取り上げたものが多く、夜のもつ神秘性や孤独感、あるいは隠された情熱を描き出しました。幼い頃から病と向き合うことが多かった経験は、彼女の詩に影を落としているとも言われます。詩集『夜の聲』の冒頭部分や、「夜の聲」「黒いショールの女」「誘惑」といった作品には、どこか陰鬱な雰囲気や死の影が感じられるのは、そうした彼女の人生観や生命への問いが影響しているのかもしれません。

同時代の批評では、当時の鹿児島の女性詩人の中で、藤田文江が最も深遠な思考と卓越した詩作技巧を兼ね備えていたと高く評価されています。

早逝

第一詩集『夜の聲』の刊行が間近に迫っていた1933年4月、藤田文江は急逝します。新屋敷幸繁宅を訪れていた際に突然激しい腹痛に見舞われ、そのまま帰らぬ人となりました。死因については、急性膵臓炎や急性穿孔性盲腸炎など、いくつかの可能性が挙げられています。享年わずか満24歳でした。その早すぎる死は、当時の文壇、特に鹿児島に大きな衝撃を与えました。

作品

生前に刊行された唯一の詩集である『夜の聲』は、没後に日の目を見ることとなりました。その後、復刻版や改訂版が出版され、近年では詩集未収録作品や散文、書簡などを収めた『藤田文江全集』も刊行されており、夭折の詩人の全貌を知る手がかりが提供されています。

『夜の聲　復刻版』（藤田文江、鹿児島詩話会、1991年）
『夜の聲　新装改訂版』（藤田文江・著 村永美和子・編、セダー社、2005年）
* 『藤田文江全集』（谷口哲郎・編、書肆子午線、2024年）

（一部作品は日本ペンクラブ電子文藝館でも閲覧可能です。）

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