虹色のトロツキー

漫画「虹色のトロツキー」について

「虹色のトロツキー」は、安彦良和によって描かれた日本の漫画で、1990年から1996年にかけて『月刊コミックトム』で連載されました。物語は昭和初期の満州国を舞台にしており、日蒙ハーフの青年ウムボルトを主人公としています。彼は、当時メキシコに亡命中だったレフ・トロツキーを満州に招く「トロツキー計画」に関与し、自らのルーツや民族的アイデンティティを探求していく過程を描いています。

作品の背景

安彦良和は、アニメ映画『ヴイナス戦記』制作後、アニメから距離を取り、歴史を題材にした作品を描く決意をしました。その中で特に満州に深い興味を持ち、『コミックトム』へ作品を持ち込むことになりました。本作は、単なるアクションや冒険を描くだけではなく、歴史の文脈に基づいた深いテーマ性を持っており、読者に考察を促します。

彼は特に、過去の被害者的視点や「馬賊もの」としてのエンターテイメント性のどちらにも偏らず、ウムボルトの視点を通して複雑な政治状況を描くことを目指しました。物語は、満州国や国共内戦など、当時の国際情勢を深く掘り下げています。

あらすじ

物語は1938年6月、日蒙ハーフの少年ウムボルトが建国大学で特別研修生として入学する所から始まります。彼は幼少期にトロツキーに似た何者かに家族を襲われ、記憶を失っています。周囲との摩擦を通じて、彼は失った記憶の断片や自らのアイデンティティを探し模索していきます。

ウムボルトは関東軍の関係者や合気道の師範から、自身の父親がどう大陸工作に関与していたのかという手掛かりを得る一方、彼の記憶が失われる原因に向き合わざるを得ません。また、建国大学での彼の経験は満州の状況とはかけ離れた理想の追求に繋がります。

物語が進むにつれ、ウムボルトは「トロツキー計画」に関与することでさまざまな人物との出会いと別れを経験し、運命に導かれた事件の真相を探ることになります。彼の行動は仲間との友情や裏切りの中で揺れ動き、戦争の凄惨な現実に直面せざるを得なくなります。

登場人物

ウムボルトを中心に、彼の幼馴染で共産主義者のジャムツ、抗日運動家の麗花、日本陸軍の石原莞爾や辻政信など、複雑な背景を持つキャラクターたちが物語を彩ります。これらの人物はそれぞれ異なる信念や思想を持っており、ウムボルトの成長に大きな影響を与えます。

特にジャムツは、ウムボルトに対し抗日運動の意義や真実を伝え、共産主義者として信念を持って行動し続ける一方、ウムボルトの姿勢を批判的に見る場面が描かれています。また、麗花はウムボルトにとって複雑な関係を持つ人物であり、そのキャラクターは物語にさらなる深みを与えています。

評価

本作品は手塚治虫に近い作風と評価され、その独自の視点と描写力が高く評価されています。また、批評家たちは、本作が満州国という過去の記憶を掘り起こし、そこに新たな光を当てる意義についても言及しています。作品のテーマや登場人物たちの葛藤を通じて、読者は歴史の難しさや人間の複雑さに思いを馳せることができるでしょう。

「虹色のトロツキー」は、安彦良和が描く心の葛藤や民族的アイデンティティを探求する作品であり、歴史を考察するための貴重な視点を提供しています。本作はその深いテーマ性から多くの読者に愛され続けています。

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