蛇咬傷

蛇咬傷（へびこうしょう）とは、蛇に咬まれて負う傷のことです。特に毒蛇による咬傷は、単なる傷にとどまらず、注入された毒によって人体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

症状

毒蛇に咬まれた場合、その症状は毒の強さ、量、咬まれた部位、そして個人の健康状態によって大きく異なります。毒の強い蛇の場合、咬まれてからわずか5分から10分で死に至ることもあります。一方、比較的毒の弱い蛇に咬まれた場合でも、咬傷から1時間ほど経過すると、患部に強い痛み、赤み、腫れが現れます。これに加え、全身症状として吐き気や嘔吐、視力低下、手足の痺れ、発汗などが現れることもあります。

最も多く咬まれるのは手や腕といった体の末端部分です。咬まれた直後には、恐怖心から心拍数の増加（頻脈）や目眩を感じることがよくあります。しかし、毒の真に恐ろしい影響は、出血傾向、腎臓機能の障害、アナフィラキシーのような重度のアレルギー反応、咬まれた部分の組織が壊死することによる横紋筋融解症、そして呼吸困難といった生命を脅かす合併症を引き起こす可能性がある点にあります。

これらの影響により、場合によっては手足の切断が必要になったり、その他の慢性的な身体障害が残ったりすることもあります。特に体の小さな子供が咬まれた場合、同じ量の毒でも体重あたりの影響が大きいため、大人よりも重症化しやすい傾向があります。

要因

蛇が人を咬むのは、通常、身の危険を感じた際の自己防衛行動、あるいは餌と間違えた場合などです。蛇咬傷のリスクが高まるのは、屋外での作業、特に農業、林業、建設業など、蛇の生息域で手作業を行う職業従事者です。

世界には多くの種類の毒蛇が存在しますが、代表的なものとしてはコブラ科（アマガサヘビ、コブラ、マンバなど）やクサリヘビ科が挙げられます。ただし、全ての蛇が毒を持つわけではなく、多くの蛇は獲物を締め付けて捕食します。毒蛇は南極大陸を除くほぼ全ての地域に生息しています。

重要な注意点として、咬まれた傷跡だけで蛇の種類を正確に特定することは非常に困難です。世界保健機関（WHO）は、熱帯や亜熱帯の発展途上国において、蛇咬傷が軽視されがちな重要な公衆衛生問題であると指摘しています。

防護と治療

蛇咬傷を防ぐための基本的な対策はいくつかあります。具体的には、蛇の生息が予想される場所では丈の高い丈夫な靴を履くこと、むやみに蛇に近づいたり扱ったりしないこと、そして蛇が出やすい環境を可能な限り避けることが重要です。

万が一咬まれてしまった場合の治療法は、咬んだ蛇の種類によって異なりますが、初期対応としては、患部を石鹸と清潔な水で丁寧に洗い、咬まれた手足を可能な限り動かさないように固定することが推奨されます。

絶対に避けるべき行為として、口で毒を吸い出そうとすること、ナイフで傷口を切開すること、そして患部よりも心臓に近い側をきつく縛る止血帯の使用が挙げられます。これらは症状を悪化させたり、合併症を引き起こしたりする危険性があります。

最も効果的な治療法は解毒剤の投与ですが、これには副作用のリスクも伴います。解毒剤の種類は蛇の種類によって異なるため、適切な解毒剤を選択する必要があります。咬んだ蛇の種類が不明な場合は、その地域に生息する可能性の高い蛇に対応する解毒剤が投与されます。しかし、世界の特に開発途上国の一部地域では、適切な解毒剤の入手が困難であったり、高価であったりするため、迅速な治療が受けられないことも少なくありません。また、解毒剤の効果は全身症状に対して発揮されやすく、咬傷箇所の局所的な組織破壊に対する効果は限定的であることがしばしばあります。重症の場合には、人工呼吸器による呼吸管理が必要となることもあります。

疫学

世界中で発生する毒蛇による咬傷は、年間で最大500万件にも及ぶと推定されています。その結果、約250万人もの人々が毒により健康被害を受け、さらに2万人から12万5千人が命を落としています。

蛇咬傷の発生頻度や重症度は地域によって大きな差があります。最も多く発生し、被害が深刻なのは、アフリカ、アジア、中南米といった熱帯・亜熱帯地域の農村部です。一方、オーストラリア、ヨーロッパ、北米といった地域では、毒蛇による死亡は比較的稀です。例えば、米国では年間約7,000人から8,000人（人口約4万人に1人の割合）が毒蛇に咬まれますが、死亡するのは年間約5人程度（人口約6,500万人に1人の割合）と極めて稀です。

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